心身の安心・安全な職場環境を土台に挑戦を重ね、
組織も個人も成長を続ける

株式会社ベッセルホテル開発

1.業界平均と比較して低い離職率を保っている背景には「心身ともに安心・安全に働ける職場環境」

 福山駅前のシンボル的存在である「福山ニューキャッスルホテル」と同グループの、株式会社ベッセルホテル開発(以下、ベッセルホテル開発)。同社が運営するベッセルホテルズは、「あなたと家族と街を愛する」をコンセプトに、顧客のさまざまなニーズに応える多様な形態のホテルを全国28拠点に展開している。

 開業以来、ほぼ毎年新規出店をしながら成長を続ける同社では、「チャレンジ」を経営理念に掲げてきた。そしてその言葉の通り、2016年に就任した瀬尾吉郎代表取締役社長のリードで、副支配人や支配人に若手を抜擢するなど、年齢や性別を問わず、能力とやる気のある人材に積極的に機会を与えている。今回は、人事課長・木下秀二氏(以下、木下人事課長)、管理課長・大山重俊氏(以下、大山管理課長)に、女性管理職の育成や登用についての話を聞いた。

 ホテル業界に共通する課題として、人材が定着しないことが挙げられる。宿泊業、飲食サービス業の新規大卒就職者の3年目離職率は52.6%と、全業種の中で最も高い(図1)。

 また、宿泊・飲食サービス業の入職及び離職率は、共に他業種と比較して突出して高く(図2)、新卒採用者に限らず、業界全体として、人材の流動化が激しいことがうかがえる。しかし、高いホスピタリティマインドを持った人材の確保は、経営的な観点から考えても非常に重要といえる。

 ベッセルホテル開発では、直近3年間の新規採用者の定着率が81.6%と業界平均と比較して高い。その理由について木下人事課長は、
「当社は、労働時間や休暇の取りやすさなど、従業員が安心、安全に働ける環境を整えることがとても重要だという認識の下、必要な職場環境整備を進めてきました」と、胸を張る。

 一般的なホテル業のイメージとして、「労働時間が長い」「休みが少ないまたは取りにくい」「勤務形態が不規則」といった労働条件の悪さが挙げられることが多い。ベッセルホテル開発では、1日3交代のシフト制としているが、休暇など本人の希望を踏まえた上で、毎月のシフトを月初に決め、月8日から9日の休暇を従業員全員が取得できているそうだ。その他、5日間連続して休暇を取得できるリフレッシュ休暇制度もあり、19年度の消化率は100%。ベッセルホテル福山の副支配人を務める木村奈々氏(以下、木村副支配人)は、
「残業もほとんどなく、休暇も取りやすい。仕事とプライベートを両立できる職場環境です」と話してくれた。
また、ベッセルホテル開発では、女性支配人、副支配人も多く活躍しているが、夜間は男性スタッフを配置するなど、女性が働く上での安全面にも配慮しているそうだ。

 制度だけでなく、社内のコミュニケーションにも気を配っている。現在3名いるエリアマネジャーが、担当店舗を定期的に巡回し、支配人、副支配人をはじめ、スタッフと密にコミュニケーションをとることで、現場の風通しを良くするサポート役になり、他店舗との情報共有を行うなど、店舗内、店舗間のリレーションづくりに尽力している。

 木村副支配人は、入社4年目に副支配人に抜擢され、就任当初は分からないことも多かったそうだ。
「困った時は、気軽に周囲に相談でき、他店舗の先輩に電話で質問することもあります。店舗を越えてコミュニケーションを取れるとても良い環境です」。
こうした店舗間の横のつながりも働きやすさのひとつといえるだろう。

 その他にも、清掃業務などを担うメンバーに、現場での気付きなどを挙げてもらう「キーパーミーティング」を月1回開催。ここで挙がった意見を全店舗に水平展開し、業務に取り入れるなど、職種の枠を越えて誰でも意見を言うことができる環境も整っているそうだ。このように心身ともに安心、安全な労働条件が整い、長期的な就業継続が見通せる職場環境が、離職率の低さにつながっているのかもしれない。

2、3年で支配人を目指すプロジェクトや組織のカイゼン活動などで意識改革

 ベッセルホテル開発の支配人、副支配人は、性別・年代だけでなく、韓国、スリランカなど国籍もさまざまなメンバーが務めている。創業以来、多くの女性が活躍してきた同社だが、18年に「やる気のある人材に積極的にチャンスを与える」という方針の下、3年間で支配人登用を目指す「3yearsチャレンジプロラム」を社長直下のプロジェクトとして発足させ、19年から運用を開始している。

 「支配人になるために必要なスキルなどの要件を具体的に設定し、上長と半期ごとに面談を行って、進捗や現状の課題、今後の目標を共有する」そう。質的に高いサービスレベルが要求される接客業務に加え、ホテルの総責任者としての管理業務や、トラブル対応などのイレギュラーな業務も多い。中には経験を積まなければ得られないスキルもあるが、プロジェクト発足以前にも3年で支配人になったケースは数例あり、
「支配人の業務として、これができれば100点満点というわけではありませんが、最初は小規模なホテルの支配人を任せるなど、手を挙げた若手に積極的にチャレンジする機会を与え、周囲がしっかりフォローする体制を整えています。走りながら学ぶといった感じでしょうか」と大山管理課長。

 また、一人一人のスキルアップだけでなく、組織全体の底上げのための施策も行っている。ベッセルグループ全体で行っている「カイゼン」活動は、年間で1つのテーマを設定し、グループ単位で問題解決策を検討、業務改善につなげる活動だが、施策ごとの効果を検証し、業務効率化によるコストダウン額、売上増加額を数字で共有するなど、「見える化」する工夫をしている。さらに、各グループで検討した提案を、社内で開催されるプレゼン大会で発表し、最優秀賞に選ばれたグループは表彰されるそうだ。こうして、努力が成果や報酬に結びつく制度にすることで、正社員、アルバイトにかかわらず、従業員一人一人の当事者意識を高めている。

3.ホテルを率いるポジションを経験し、成長することでより大きな夢へ

 ベッセルホテル開発では、多くの女性支配人、副支配人が活躍している。出産、介護といったライフイベントに応じて働き方が変わる時期もあるが、同社は、「意欲のある人材には長く活躍してもらいたい」という考えもあり、これまでそういった個別の事情にも柔軟に対応してきたそうだ。

 例えば、地域正社員として入社した入社10年目の女性は、福山で副支配人、支配人を務め、結婚。夫の勤務地である名古屋へ転居と同時に、ベッセルイン栄駅前へ副支配人として配置転換され、現在、同ホテルで支配人として活躍している。
 また、総合職として入社した16年目の女性は、ベッセルホテル石垣島で支配人まで務めたのち結婚、出産を経て同ホテルに副支配人として復帰し、現在再び支配人として活躍中だそうだ。その他にも、アルバイトとしてベッセルホテル開発でキャリアをスタートし、その後正社員となる人材も多く、中には副支配人、支配人として活躍しているメンバーもいるそうだ。

 現在、ベッセルホテル福山で副支配人を務める木村副支配人は、こうしたロールモデルとなる女性の働き方に影響を受けて入社を決めた一人だ。
「企業訪問の際、女性支配人からお話を伺いました。若い人も多く活躍しており、ここで働いていくイメージが持てました」。

 木村副支配人は17年に地域正社員として入社後、同ホテルでクルーとしてフロント業務などに従事し、20年4月から副支配人として活躍中だ。しかし、副支配人へのチャレンジを打診された際、一度は断ったそうだ。
「支配人や副支配人の業務は、多岐にわたっており、自分にできるか不安だったのですが、いつかチャレンジするのであれば、今チャレンジした方がいいと思い直しました」
と、与えられたチャンスを成長の機会と捉え、引き受けたそうだ。

 副支配人公募制度などもあり、個人の意志でチャレンジする機会等、成長の機会が用意されているため、「今後は、より大規模な店舗や新店の副支配人にもチャレンジしてみたい」と、木村副支配人は目を輝かせる。さまざまなバックグラウンドをもつ多くの女性が活躍する同社で、若手もロールモデルを見つけ、より大きな夢に向かって一歩ずつ成長していく様子が伝わってきた。

●取材担当者からの一言
 初期キャリアにおける「仕事は面白い」と思える経験が、その後のキャリアに対する考え方に大きく影響するといわれ、女性活躍を推進する上で重要である。実際に、出産などのライフイベントの前にそうした機会を積極的に与える企業も増えつつあるが、チャレンジ精神旺盛な若年層の意欲だけではこうした経験をすることは難しい。「周囲がサポートすれば、やりきれる」レベルの業務を、個々人のスキルや特性、ライフステージ等を見極め、先輩や上司、部署が一丸となって伴走する体制を企業側が整えている。ベッセルホテル開発は、性別、年齢を問わず、従業員が経験を自信に変え、ステップアップするためのチャレンジの機会を与えている。こうした、一人一人の成長が、企業としての成長につながっているようだ。
 今後、海外展開も見据えているという同社は、女性活躍も含めたダイバーシティをさらに進化させていくだろう。

●取材日 2020年10月
●取材ご対応者
管理課長 大山 重俊 氏
人事課長 木下 秀二 氏
副支配人 木村 奈々 氏

会社概要

株式会社ベッセルホテル開発
所在地:福山市南本庄3-4-27
URL:https://vessel-group.co.jp/vessel-group/hotel/
業務内容:広島に4店舗、全国各地に32店舗(開業予定含む)を展開するホテルチェーン。「ベッセルホテル」「ベッセルイン」「ベッセルホテルカンパーナ」「レフ by ベッセルホテルズ」「レクー」の5つのホテルブランドを有し、ビジネスやプライベート観光の利用など、顧客のさまざまなニーズに応えている。
従業員数:396名
女性従業員比率:55.3%
女性管理職比率:13.2%
(2020年10月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com