チャレンジビジョン最終年
デジタル化進め県政発展へ

新春インタビュー 広島県 湯﨑 英彦 知事

-サッカースタジアムの建設地が広島市中央公園広場に決まりました。

 街中にあるため、中心部のさらなる活性化や新しいにぎわいを生んでいくような機能が必要です。スタジアム本体だけでなく公園も含めた複合開発で、いろいろな人が集まり、楽しめるようにしたい。サッカーのある時だけでなく年間を通じてにぎわうことが必要だと思います。県民や有識者の皆さんのご意見を伺いながらまとめていくことになります。いずれにしても、全県、あるいは中国地方全体から「あそこへ行ってみたいよね」と思われるような計画を作っていきたいと考えています。

-しまなみ海道がナショナルサイクルルートに指定されました。どのような効果を期待していますか。

 ナショナルサイクルルートは、本県も国に対してこういう制度を作ってはどうかと提案してきたものなので、その第1号に選ばれたのは大変光栄です。国交省はもちろん沿線の自治体も含めて、皆の努力のたまものだと思います。国もナショナルサイクルルートをよりPRしていく方針なので、しまなみ海道のブランド力をより高められるのではないでしょうか。またこれを機にPRだけでなく、環境整備にも力を入れたい。こうした思いや環境整備が進んで、よりよいサイクリングルートになっていけば観光客に伝わり、口コミでさらに広がるという好循環が生まれるのではないかと期待しています。
 海岸線や橋を自転車で走ると、直接潮風を受ける感覚が体験できる。海の色や太陽の光などが直接的に感じられるのです。車では分からない景色の変化や美しさがあり、新しい発見がある。そういうことが評価され世界的なブランドになっていると思うので、さらに磨き上げたいです。

-多くの中小企業にとって事業承継が課題となっています。

 広島県事業引継ぎ支援センターを2014年に開設しました。主にM&Aによる事業継続を進めており、かなりの数の承継案件が出てきています。それから県内の関係者、支援機関などをまとめた事業承継ネットワークをつくって、さまざまな案件の掘り起こしや、専門家派遣を行っています。県としても経営者の意識喚起などが必要ですし、支援をする側もスキルアップしていかなければなりません。各種セミナー、研修会などで支援者のノウハウの向上に務める一方、経営者の意識喚起も進めています。

-ひろしまイノベーション推進機構でも事業承継や成長を支援する新しいファンドが立ち上がります。

 県は今回の新ファンドにお金を出してはいませんが、機構として事業承継案件も含めて、しっかり成長企業の支援を進めてもらいたい。ファンドは一つの受け皿になりますし、ただ承継するだけではなく、そのときに経営に参画していわゆるハンズオンで支援を行うことで、より円滑な事業承継が実現することもあります。承継する企業の一層の成長も実現できるのではないかと思っています。

-世代交代を後押しするために必要なことは何でしょうか。

 例えば環境問題では森林が重要な要素です。森林も成熟すると二酸化炭素吸収力が減る一方、若い木は旺盛に吸収します。それと同じようなところがあって、経験値の高い実績のある経営者は非常に安定しているわけです。一方で、若い人は新しいことにチャレンジして、リスクもあるが成長していく分野に賭けることもできるわけです。要はシニアと若い人のうまい組み合わせが必要。伸びを抑えるのではなく、伸びを支援する形が理想だと思います。ムリをしすぎて木が倒れてはいけませんから、できるだけ成長を見守ったり、枝打ちをしたり、水をやったり肥料をやったりと、うまく組み合わせればいいのではないかと思っています。

-ファンドを事業承継の選択肢の一つにするという認識は広がるでしょうか。

 銀行などの金融機関が事業承継ファンドをつくる例はあると思います。しかし比較的小規模な案件が多いので、機構ではもうちょっと大きな企業もできると思います。もっと事例を紹介するなど、見える化が必要だと考えています。金融機関の場合はどうしても金融機関としての見方がありますが、独立したファンドの場合は金融機関とは違う成長の見方があると思います。リスクの取り方も違います。特に急成長を目指していく企業については、もっと事例を発信してもらえるといいのではないかと考えます。例えばベンチャー型事業承継という一般社団法人も東京にあります。ただ円満に引き継ぐだけではなく、事業承継を機にベンチャー的に急成長していくことにも役立てば良いと思います。

-7月に設置したデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタルを利用した変革)推進本部の狙いは。

 DXは、否が応でもやってきます。技術が大きく変わり、経済面だけでなく社会全体で広く必然的に使われるようになるでしょう。これで雇用がどうなるかなどといった議論もありますが、少子化や労働力不足を含めさまざまな構造的な課題を解決する可能性もあり、同時に経済発展を目指すことができるチャンスでもあります。行政としても、どうせ進むのであればしっかりと進んで取り残されない、むしろ先頭に立って取り組んでいく必要があると考えています。

-活動状況と、今後の取組の方向性は。

 今は具体的にどうするかを整理しているところです。本部長を山田仁副知事に任せており、分野を3つに特定しました。「仕事と暮らし」、「地域社会」、「自治体行政」のそれぞれのデジタル化をどう進めていくかを検討しています。その中の一つ、仕事について言えば、県はデジタルで地域課題の解決を図るオープンな実証実験「ひろしまサンドボックス」をスタート。これも一つの先駆けですし、サンドボックスに見られるように、交通や社会的インフラ、医療、教育、農林、漁業に応用しており、具体的なプロジェクトとして進んでいます。地域を切り口にしたデジタル化の例ではスマートシティなどもある。市や町と連携しながら取組を今後進めていきたい。今その準備をしているところです。

-県庁内の働き方や業務の進め方の変革にも取り組まれています。「どこでもワーク」のうち、在宅勤務制度の18年度利用実績は延べ577人、2516日でした。

 だんだん増えていますが、まだまだかなと思っています。できるだけ場所を意識しないで仕事ができるようになればいいなと思います。誰でもそういう状況はあり、常に外で仕事をしなければならないわけではありません。例えば何か家に事情があって途中で帰ったけれど2時間で終わったという場合。あとの時間も必ず休む必要はないのです。残り時間は家で仕事をすれば、余計に休みを取らなくて済みます。あるいは出先から一度県庁に戻らず直帰し、家で1時間仕事すれば、ムダな移動の代わりに生産的な時間に変えられる。誰でもそういう機会があるから、全員が利用するようになればいいと思います。

-新年の抱負をお願いします。

 引き続き災害の復旧・復興事業を進めたい。被災者の生活再建では道半ばの人もたくさんいますので、しっかりフォローすることが必要だと思っています。
 また、今年はチャレンジビジョンの最終年。「仕事も暮らしも。欲張りなライフスタイルの実現」という目標に向かって取組を進めます。人づくり、新たな経済成長、安心な暮らしづくり、豊かな地域づくりの4つの政策分野の総仕上げをしたい。その上で次の総合計画は県民の皆さんに分かりやすく、新しい時代をしっかりと見据えたものを作っていきたい。先ほどのDXについても、充実した取組内容を検討します。
 今年は被爆75周年です。オリンピック・パラリンピックもあって多くの人が広島を訪れるでしょう。広島について多くのことを知っていただく絶好の機会。核兵器のない平和な国際社会の実現へ、平和に関するメッセージだけでなく内容的な進展も図っていかないといけないと思っています。