人的資本経営を促進 若者に選ばれる広島県へ
広島県 / 湯崎 英彦 知事
□■━━ 広島経済レポート|2025年新春インタビュー ━━■□
広島県の人口移動は10代後半から20代で転出超過が顕著だ。その理由は進学もあるが、特に就職で流出超過が続いている。若者の減少対策として、例えば大学と連携協定を結んで就職のUIJターンや、首都圏からの移住を促している。企業の誘致では特にデジタル系に力を入れており、若い人たちの流入があるもののマクロ的に見ると、なかなか転出超過が収まらない。それどころか拡大傾向の状況が大きな課題だ。今回の調査では「就職先」や「居住地」などのうち何を重視するかによって、いくつかの特徴があると明らかになった。
就職先を重視する人は大企業、あるいは成長機運が高いベンチャー企業などを希望し、大都市圏への流出が見られる。居住地を重視する人の中でも、漠然と憧れて大都市に行く人たちがおり、いつ、どこで、どのように意思決定をしているか、どれぐらいの人数がいるかが、ある程度分かってきた。それをベースに今後、具体的に対策する。県はもちろん、市や町の課題でもある。市町や経済界と連携しながら、こういった特性を持った皆さんに広島で仕事に就いてもらえるよう、情報発信やアピールの方法を詰めていきたい。
広島県は全国の自治体で唯一、「人的資本経営促進課」を設けている。若者から選ばれる企業という観点で、働きやすく、働きがいがある、社員が成長できる組織づくりが重要だ。競争力の向上はもちろん、人手不足の中でも貴重な人材に選んでもらえる企業が増えていけば、地域の若者の転出超過の抑制にもつながる。
2023年から人的資本経営に関して大企業の情報開示が義務化された。方法論としてはISO取得などがあるが、非常に複雑だ。県が本年度に開設した情報発信ポータルサイト「人的資本経営ひろしま。」では、広島県人的資本経営研究会の会員企業向けに人的資本経営について自分たちで点検したり点検結果を開示したりできるツールを公開している。分かりやすく、簡便に使えるよう工夫した。もちろんツールだけではなく、しっかりとその理解を促すために勉強の場をつくり、特に中小企業に推進していく。多くの人材が広島の企業を選び、地域に人が集まる。それによる活力や、にぎわい創出の効果は大きい。
人的資本経営の実現には、多種多様な要素が関わってくる。県では既に「リスキリング」や「働き方改革」、「女性活躍」、「男性育児休業」など多様な支援に力を入れており、これらを包括すれば人的資本経営で目指すべき姿が形づくられると考えている。言葉自体はなじみが薄かっただろうが、コンセプトを伝えて周知し普及させていく。
これは県が推し進めてきたDXの流れの一環で、同宣言では大まかに「AIサンドボックス」、「広島AIラボ」、高校生対象の「AI部」の三つに取り組んでいる。いろいろな形で企業や皆さんに参画していただき、実際に使いながらAIソリューションについて考える機会を提示したい。例えば同サンドボックスではアプリを作りたい会社と開発技術を持つ会社を結びつけることで、前者にはAIを使った課題解決方法を理解してもらい、後者も実証データを使ってアプリを改善していくことができる。一連の過程で情報やソリューションを共有しながら機運を高め、自分もやろうという人を増やす。県庁内に設置したAIラボについては、行政の業務にAIを使うだけでなく、社会で広く活用できる方法を探求中だ。
AI部では高校生が興味津々にオンライン講座などを受けてくれており、彼ら彼女らが将来AIを使う、あるいは作る側になるかもしれない。とにかく試してみることが大事だ。
今回の整備によって、多くの人が外からやってくる陸の玄関口「広島駅」の魅力がさらに増す。例えば2階に路面電車が乗り入れる珍しい光景もあるなど、他の商業施設にはないような雰囲気の素敵な空間ができることを、とても期待している。普通の空間は通り抜けるだけだが、面白ければ駅に着いてワクワクするし、その場所で楽しむこと自体を目的に多くの県民が足を運ぶ。一方、紙屋町や八丁堀、基町も再開発がいよいよ動き出した。旅行者が駅でのワクワク感を抱いたまま八丁堀や紙屋町に来て平和公園まで足を運ぶという回遊性の向上につなげていけば、街がどんどん魅力的になっていきそうだ。
昨年の新サッカースタジアム開業も大きなトピックスだ。今のところJ1リーグは1試合平均約2万5000人のほぼ満席状態という。人流の数字を追いかけてみると、横川や中心部に流れて飲食して帰る行動も起きつつあり、これをもっと増やしていければと思う。
われわれが持つ価値を「元気」「美味しい」「暮らしやすい」と改めて定義し、県のブランドとして打ち出した。例えば「元気」には被爆から立ち上がってきた元気や、スポーツの元気などいろいろな種類がある。「暮らしやすい」という価値にも、自然と近いこと、比較的穏やかな気候であることなど、多彩な要素が挙げられる。
「美味しい」は観光客にも訴求しやすいブランド価値だ。今まで以上に多くの人の目に見える形を意識し、集中的に取り組みたい。地元の人はうまいものをたくさん知っているが、県外の人からするとやはり圧倒的にカキ、お好み焼き、もみじ饅頭が思い浮かぶそうだ。10年前のプロモーション「おしい!広島県」以来、これにレモンが加わった。どれも独自性があり、これだけ出てくるのは、すごいと思う。例えば他県で三つ挙げるよう言われても、なかなか出てこないのではないか。しかし、原爆ドームと宮島と同じように光が強すぎて他に目が行かなくなりがちだ。隠れているだけで本当は他にもたくさんあり、もう一度掘り起こす。
福岡も広島と同じように、博多ラーメンや水炊き、もつ鍋などをすぐに想像するだろうが、それ以上に博多のまち自体に「美味しい」イメージがある。金沢は、具体的な食が思い浮かばずとも「美味しい」印象がある。広島のまちにもこのイメージを持ってもらい、「何か美味しいもの食べに行こう」と需要を創出することが目標だ。そのために料理や食材だけでなく、料理するシェフにいたるまで魅力を磨き上げ、発信していきたい。
非常に不確実性が高い時代の中で、変えられないものを変えようとするよりも、まずは自分たちの価値をどういうふうにつくるかに注力すべきだろう。長らくイノベーション立県を掲げてきた。人的資本経営の推進も「おいしい!広島」プロジェクトも本質は同じ。会社のメンバーが最大限に一人一人の持てる力を発揮できる体制を築きながら、それによって新しい価値やイノベーションを生んでいく。しっかりとした価値が形づくられれば売り込みやすい。特に他の人が提供していない希少性が高いほど、みんなそれを求めに来る。外部環境の厳しさもあるだろうが、地元企業と一緒になって徹底的に磨き上げたい。
広島経済レポート|2025年新春号掲載