働きやすい環境を全員でつくり、
長く続けたくなるような誇れる仕事へ

社会福祉法人永照福祉会

1.保育を通じて地域や社会に貢献し、SDGsの視点を取り入れた先進的な取組を実践

 社会福祉法人永照福祉会が運営する「認定こども園ロータスプリスクール」は、穏やかな表情と思いやりのある接し方を提唱する仏教の教え、「和顔愛語」を理念とする。今回の取材では、乳幼児教育のプロフェッショナル集団と評される同スクールの理事長・龍永直記氏(以下、龍永理事長)が園長を兼務する「認定こども園ロータスプリスクール西原」での取組を中心に話を聞いた。

 2015年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)は、国際社会共通の目標であり、日本においても政府、行政、企業、個人とそれぞれのレベルで取組が進められているが、同園でも18年以降、このSDGsの目標達成に向け独自の取組を始めたそうだ。

 「私たちの仕事は、目の前の子供を見ることだけではなく、保育を通じて地域や社会に貢献することであり、世界に羽ばたく人材の乳幼児教育を担っています。そういう意味で、保育士には仕事に誇りをもち、働きがいを感じてもらいたい」と龍永理事長。SDGsの取組を始めた背景には、こうした保育士への思いがあったのだそうだ。

 SDGs17の目標のうち、同園が取り組む「5.ジェンダー平等を実現しよう」や「12. つくる責任つかう責任」(廃棄物の削減の推進)などについて、まず伝え手である保育士が理解し、納得することが重要だが、この点について龍永理事長に聞いた。

「ジェンダー教育に関しては、『ロータスプリスクール』全体では、現在8名の男性職員が在籍しており、来年度はさらに2名の入社が決まっています。女性比率が高い保育業界の中で男性比率が9%と高いこともあり、比較的多様性があるのが一つの特徴かもしれません。

 その上で、子供たちに対しては、『男の子だから』『女の子だから』という区別をしない自然な生活を心掛けています。分かりやすい例として、制服のズボンとスカート、室内シューズの赤と青を自由に選べるようにしています。また男の子は『くん』、女の子は『ちゃん』ではなく、全員『さん』と呼ぶなど、生活の中で自然と身につけていけるよう工夫しています」。

「幼児教育はとても重要だと考えています。各家庭での教育に園として関わることはできませんが、園で生活する中で、保育士を含めた大人が持つ固定観念を子供たちに強制しないよう、職員全員で心掛けています。幼児期に吸収した知識や感性は、成長していく上でのベースとなります。園児たちが幼児教育を終え、児童教育へと移行していくことも視野に入れながら、うまくバランスをとりながら進めています」。

2.ITを取り入れた業務軽減への取組

 保育業界全体の課題として就業継続が挙げられるが、具体的な退職理由に関する調査結果を見ると、「職場の人間関係(33.5%)」、「給料が安い(29.2%)」に続いて、「仕事量が多い(27.7%)」、「労働時間が長い(24.9%)」などがある(図1)ことからも分かるように、離職を防ぐためには保育士の業務負荷を減らすことが必要といえそうだ。

図1.過去に保育士として就業した者が退職した理由(※)

 こうした課題に対して、同園では、ITを活用した業務効率化を進めている。

 「19年から、『園だより』などの配布物や登降園簿(登園、降園の時間を記入するもの)、保護者との連絡帳もデジタル化しました。これまで、紙ベースのやり取りで保育士にとっても負担が大きかったのですが、デジタル化したことで業務効率化につながっただけでなく、写真や動画なども活用して、よりスムーズに保護者とコミュニケーションをとることができるようになりました。また、保育業界では、保育以外の関連業務に集中する時間(ノンコンタクトタイム)をいかに確保するかが課題とされていて、その解決にも役立っています」。

 また、園児の保育記録や健康記録などの紙資料もデータベース化したことで、必要なときに必要な情報をすぐに確認できるようになり、こちらも業務効率化につながっているそうだ。
 18年からは、職員同士のコミュニケーションツールとしてSNSを活用しているそうで、職員間の連絡、連携ツールとしてだけでなく、育児休業中の職員にも園の様子を共有するなどし、復職時の不安を払拭するなどの配慮も行っている。

3.業務負担の偏りを減らし、組織全体で働きやすい環境づくり

 若手保育士が多い場合、同じ時期にライフイベントを迎え、育児休業取得時期が重なってしまうケースがある。実際、姉妹園の「認定こども園ロータスプリスクール大芝」では、現在4名が育児休業を取得している。

 同園園長の本田淳子氏(以下、本田園長)は、
「同じ時期に育児休業が重なってしまい、一時的に人手が足りなくなることが課題です。復職後も、短時間勤務など働ける時間帯が限られることが多く、子育て中のメンバーとそうでないメンバーの間で業務負担に偏りが出てしまうということはあります」と言う。

 「長期的な視点で自身のキャリアを捉えてほしい」
と本田園長も話すように、園として就業継続のため、短時間勤務や勤務時間帯の調整をすることで、職員一人ひとりの環境に合った働き方を個別に話し合い、負担になりすぎない働き方を職員が選択できるよう配慮しているそうだ。加えて、一時的に働き方に制限のある職員をサポートしてくれる職員をフォローする制度づくりも進めている。

 具体的には、早朝や延長保育の時間帯、休日(土曜日)や、代替出勤をしてくれた職員へ手当を支給する制度を整備し、全員が少しでも気持ちよく働けるようにしたそうだ。

 最後に、龍永理事長に今後の園としてのあるべき姿について聞いた。
「まだまだ課題も多いですが、より働きやすい職場を、みんなでどうやってつくっていくかという意識を職員一人ひとりが持ち、トップダウンではなく職員全員で主体的に取り組んでくれる体制をつくりたいと思っています。そのために園としてできることはサポートしていきたいです」と話してくれた。

※ 出典:「東京都保育士実態調査報告書(令和元年5月公表)東京都福祉保健局」

●取材担当者からの一言
 保育業界全体の課題解決の一つとしてITを活用したり、ジェンダー教育や環境問題といった時代に沿った取組を積極的に教育に取り入れたり、若い理事長ならではの感性で、時勢の変化を捉えて進めているようだ。また、女性活躍をはじめとするダイバーシティを実現するためには、幼少期からのアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の払拭への取組が非常に重要だと、同園が実践するジェンダー教育の話を聞きながら改めて感じた。

●取材日 2020年12月1日
●取材ご対応者
認定こども園ロータスプリスクール 理事長 龍永直記氏
認定こども園ロータスプリスクール大芝 園長 本田淳子氏

会社概要

社会福祉法人永照福祉会
所在地:広島市安佐南区西原6-25-35
URL:https://lotus-preschool.jp/
業務内容:広島市内に「認定こども園ロータスプリスクール」3園、「ロータス放課後児童クラブ大芝」を運営する。子供主体の保育を基本とし、SDGsやアクティブラーニングなど先進的な取組も取り入れ、次世代を担うグローバル人材の育成を担う
従業員数:91名
女性従業員比率:91%
女性管理職比率:60%
(2020年12月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com