人材確保と従業員の定着・成長につなげる
意識改革と業務効率化でメリハリのある職場を実現

テンパール工業株式会社

取り組んだ背景 ~働き方改革で企業ブランド価値の向上へ

 1951年創業で配線用遮断器、漏電遮断器、各種分電盤、漏電火災警報器などの設計から開発、製造、販売まで手掛ける。中国電力グループとして早くから完全週休2日制(年間休日125日)を導入するなど、充実した福利厚生で働きやすい環境の整備に取り組んできた。
 しかし、ここ数年は若手従業員の定着や大卒理系を中心とした優秀な人材の確保に苦戦しており、今一度、働き方改革をはじめとした社内体制の見直しの必要性を感じていたという。取締役社長の伊藤豪朗氏は
「中国電力グループの方針で以前より働き方改革に取り組んでいましたが、当社独自でもさらなる取組を進めたいと考えていました。当社のようなBtoBの会社は学生の認知度が低く、対外的に企業イメージやブランド力向上を図るためにも、働き方改革は必要です。また、従来から存在する制度は時間の経過とともに陳腐化していることが多いので、これまでの制度などは全て変えるという気持ちで働き方改革に取り組んでいます」
と取組への思いを話す。

主な取組と工夫点

◆若手社員の定着へ、教育制度を拡充
 2015年以降、新卒で入社した若手従業員の離職率が目立つようになっていた。原因を調査していくうちに、キャリアアップ支援や人材育成の取組が不十分であることが分かった。全国に営業拠点がある中、これまで人材育成は現場ごとのOJTに委ねられており、現場や人によって指導方法が違っていたり、教育に手が回っていない事業所があることも明らかになった。そこで、これらの問題点を整理し、配置や配属、異動を含めて見直すことにした。
 これまで入社後の新入社員研修は1カ月間(営業配属者は2カ月間)だったが、加えて19年から入社2年目に同期を全員集める研修を開始した。実務経験後の職場での悩みや不安を同期内で打ち明けられる場となるほか、今後求められる役割を改めて認識する場となり、キャリアアップに対するモチベーションが高まっているという。また、20年から管理者が部下に対して、年2回の面接を通じて中長期的育成や単年度育成などのテーマを設定し人材育成を図る新たな制度を採り入れた。さらに、5年に1回程度を目安に階層別の能力開発研修を設け、ベテラン従業員に対する教育体制も強化した。
 資格取得などの自己啓発支援にも力を入れている。会社で認められた資格を取得する際、講習料や受験料、交通費などを全額、会社で負担しており、さらに合格後は報奨金を支給している。20年6月には対象資格を70種類以上に拡大。マーケティング検定やカラーコーディネーターなど、現在の従事業務に直接関連がない場合でも、受験料などを全額負担することとした。制度利用による資格取得者数は19年度が74人、20年度は1月末時点で37人。外部研修についても、県内の人材会社が手掛ける管理職育成やコンプライアンスなどの60講座を一括契約しており、従業員が希望すればいつでも受講できるようにしている。伊藤氏は、
「人材は財産です。教育制度を充実させ、従業員一人一人の成長を促していきたい」
と人材育成への思いを話す。

◆全社所定労働時間を5分短縮することで、生産性向上の意識定着
 19年6月に伊藤氏が社長に就任して間もなく、各拠点を回る中で、残業削減に対する従業員の意識が低く、一部の拠点では管理職からの残業指示が明確になっていないことが判明。伊藤氏は
「特に営業職では残業が常態化していた人もおり、社内の働き方に対する意識の低さを痛感。サービス残業が起きるような風土はあってはならない」
と話す。全従業員の過去2年分の残業実態を洗い出し、過去のサービス残業の疑いがあるものについて一括精算すると共に、残業を防ぐための制度や仕組みを設けるなど、残業に対する意識改革を徹底的に実施した。
 さらに、時間に対する意識改革を徹底するために、19年10月に所定労働時間を5分短縮した。当初は労働時間を5分削るだけでも業務にさまざまな支障が出たが、支払の電子化や社内データのクラウド化、時差出勤制度やコアタイム制度など、限られた時間の中で生産性を上げるためのさまざまな案が生まれ、次第に定着してきたという。併せて、始業前のラジオ体操や時間外の電話の取り次ぎ、無駄な会議も全て廃止した。さらに、これまで全て社長だった決裁も部下に権限移譲して社内の意思決定にスピード感を持たせた。こうした取組がうまく作用しているという。

◆さまざまなニーズに対応する独自の休暇制度を導入
 従業員のライフサイクルやライフステージに合わせたさまざまなニーズに対応すべく、17年10月に業務外の傷病や人間ドック、家族の看護・介護、配偶者の出産、育児、子の行事、ボランティア活動などに使える「ライフサポート休暇」を新設した。入社時に30日を付与し、年度末に消滅する年次有給休暇の積立と合わせると最大80日を利用できる。取得手続きも有給休暇手続きと同様に簡素化しており、子育て世代の従業員を中心に普及しつつある。伊藤氏は
「従業員1人当たりの年間平均有給休暇取得はまだ10日程度。少人数の営業所では休みづらいといった声もあり、業務効率化に向けた社内改革を続け、休暇取得に向けた機運を高めていく」
と話す。

◆組織の活性化へ、女性の活躍を推進
 電気設備業界はいまだ女性就業割合の少ない男性中心の業界だが、数年前から組織を活性化するために女性の積極的な採用を進めている。17年以降、女性総合職を積極的に営業職へ配置し、現在は東京支店に3人、福岡支店に1人の女性営業職が在籍している。女性管理職については既に本社に2人いるが、全国の営業所には女性管理職がいないため、今後は組織の再編を進めながら計画的に女性管理職の登用を進めていくという。

取組の中で苦労したこと ~意識改革が最大のテーマ

 取組を進めていく中で、最も苦労したのは意識の改革だという。常態化していた残業をなくすため、労働時間の5分短縮や無駄な会議の廃止などといった小さな取組を積み重ねていった。
 また、男性の多い業界であることから、現場配属は男性の方が良いという無意識の偏見もあったという。そこで、女性の部下を持つ従業員への研修を実施するなど、意識の改革に力を入れてきた。まだ道半ばであるというが、小さな取組や成功体験を積み重ねることで、少しずつ従業員の意識に変化がみられるようになったという。

取組の成果 ~従業員の意識を改革し、若手の定着率が向上

 働き方改革を通じて、従業員の安全や健康、残業に関する考え方などが変わってきた。業務効率化に向けた前向きな提案に加え、人材育成制度も充実してきており、若手の離職防止にもつながっている。15年度は入社16人中8人が離職したが、16年度は31人中4人、17年度は8人中1人、18年度以降は計43人中0人となっている。

課題や今後の目標 ~働き方改革を全従業員に浸透させ、業務効率化を加速

 伊藤氏は
「全従業員の半数近くが県外に在籍していることから、これら取組にまだ地域差があると感じている。今後は主に県外拠点の従業員にも経営層の声や取組が届くように情報共有を密に行い、全従業員をサポートする環境整備や仕組を充実させていきたい。また、少子化による人口減少、それに伴う国内市場の縮小から、今後はさらに生産性を高める必要があります。製造プロセスの自動化をはじめ、ITツールを活用した業務全般のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進めていきます。21年4月にDX推進の新たな部署を立ち上げる予定です。すでに一部でRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を試験導入しており、業務の効率化が図れているので、今後は全社で水平展開していきます」
と意気込む。

従業員からの評価

技術本部 開発部 産機・電子担当
加治屋 周策 氏
 育児を目的にこれまでに2回、各1カ月ずつライフサポート休暇を取得しました。私の両親は転勤族で、妻の両親も遠方に住んでいるので、近くにサポートしてくれる人が少なく、この制度があってとても助かりました。また、残業に対する社内改革が始まってからは時間内に終わるように業務にメリハリをつけて仕事ができるようになりました。現在、新商品の開発に携わっており、年間を通じて忙しい状態ですが、部署内で協力する環境が整っているので、ワークライフバランスをしっかりと確保できています。

東京支店
百々 真琴 氏
 18年4月に総合職として入社しました。配属当初は受け入れてもらえるか、居場所があるのか非常に不安でしたが、上司や先輩方に恵まれ、のびのびと仕事をすることができています。営業に出てからは、取引先などでかなり珍しがられましたが、自分を覚えてもらえるポイントになっていると思います。男性の多い職場ですが、女性だからと否定的に対応してくる人もおらず、働きやすいです。自己啓発支援制度については、入社時に第二種電気工事士の資格にチャレンジし、取得しました。有休も積極的に利用しており、ワークライフバランスがしっかりとしています。

取材日 2021年2月

会社概要

テンパール工業株式会社
所在地:広島市南区大州3-1-42
URL:http://www.tempearl.co.jp/
業務内容:配線用遮断器、漏電遮断器、住宅用分電盤の設計・開発・製造・販売
従業員数:367人(男性279人、女性88人)パートタイム社員含む
(2020年3月時点)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com