感動の連鎖が自らの心も震わせ、
仕事へのモチベーションへ
株式会社Share Clapping
1.同業界の離職率に比べ、半分以下の快挙。採用活動も順調
株式会社Share Clapping(以下、Share Clapping)は、結婚式のプロデュースをはじめとし、式前の結納・式後の新生活に必要な寝具・家具の提案までさまざまなサポートを行うブライダル企業である。
Share Clappingの女性従業員比率は85.7%で、女性管理職比率も60.0%と高い。女性管理職は、全セクションを統括する天野真由美総支配人と、現在は産後休暇中の営業統括部 部長の計2名だ。Share Clappingの歴史を築きながら走り続けてきた天野総支配人は、現在会社の責任者として全体のマネジメント、ブランディング、従業員の教育など多岐にわたる役割を担っている。
また、Share Clappingが属する生活関連サービス業・娯楽業の離職率は22.1%と、宿泊業・飲食サービス業の30.0%に次いで、2番目に高い業界となっている(図1)。
図1 産業別 入職率・離職率
出典:平成29年雇用動向調査結果の概要 図3産業別入職率・離職率
※平成29年1月から12月の状況
天野総支配人によると、ブライダル業界においても、入社から4、5年ほどで退職する女性従業員が多いという。理由として、メインの仕事である挙式や披露宴が土日祝日に行われることや、顧客対応が平日の夕方以降に集中し、家庭との両立が難しい勤務形態になりやすいことが挙げられるようだ。
しかし、Share Clappingの離職率は5.8%(※1)と、生活関連サービス業の離職率22.1%と比較すると半分以下であり、従業員が比較的定着している。しかもShare Clappingにおける主な離職の理由としては、遠方の方との結婚など、やむを得ない理由であるという。
さらに、人手不足と言われる昨今であるが、Share Clappingでは、応募者も多い中で毎年コンスタントに新卒採用を行っており、採用活動は順調という(表1)。
※1 2017年4月から18年3月までに退職した人数2名/18年3月時点の人数
表1 Share Clappingにおける近年の採用状況
2.全従業員が仕事の面白さや夢を語る、ユニークな会社説明会で採用は順調。若手も定着
採用活動が順調な理由として、会社説明会で給与や福利厚生といった一般的な概要よりも『会社が何を大切にしているのか』という価値観の部分にスポットを当てている影響もあるようだ。
Share Clappingの単独会社説明会はとてもユニークだ。全従業員が参加し、自分の仕事や夢を描いた模造紙を広げ、参加者を自らのブースに勧誘する。仕事の面白さや夢、自分の体験を自分の言葉で“語る”。この “語る”説明会では、入社希望者が生の声を知り、会社の雰囲気を感じられるだけでなく、従業員が自分の仕事を見つめ直し、自信を持つ機会にもなり、相乗効果が生まれているという。
「ありがたいことに、スタッフは自分たちがつくり上げる結婚式と、この会社を好きでいてくれています。そして、会社説明会に足を運んでくださる学生の皆さんは、すでにブライダルという仕事の魅力を知った上で志望されている方が多いので、経営者が前に出て、仕事や会社の特徴を語るより、従業員一人一人がやりがいと誇りを持って働いているありのまま姿を見たり、感じたりしていただいたほうが『この会社で自分も夢を実現したい』『この人たちと働きたい』と思ってもらえるのではと考えました」と、天野総支配人が教えてくれた。
こうした従業員の声を伝える採用活動は、会社説明会だけでなく、FacebookやInstagramなどのSNSを活用した広報でも導入されており、就活生の間で「Share Clappingが面白いらしい」といった口コミが増え、入社希望者数の増加、採用者数の安定へとつながっている。
また、Share Clappingの従業員定着率が高い理由の1つとして、会社の経営理念に「賛同・共感」している従業員を採用していることが挙げられるそうだ。
“結婚”をきっかけに新郎新婦、ご親族、お二人の大切な方々が共有する幸せや、波紋のように広がる笑顔を、もっと多くの人々と分かち合いたいという思いから「世界中に拍手喝采の波を、もっと」というミッションステートメントを天野総支配人が中心となって作成している。
「Share Clappingのスタッフは、お客様の人生の大きな節目に携わり、お客様と共にカタチのないものをつくり上げていく仕事をしています。お客様の笑顔、幸せ、感動を創造するためには、従業員自身がやりがいを持ち、笑顔で働くことが必要不可欠です。その環境づくりの基盤として会社の存在意義と、目指す方向を経営理念やコアスタンダードとして掲げ、従業員全員が常日頃から意識できるように努めています」。
そう語る天野総支配人は、ジャケットの胸元から従業員と共に考えた行動指針となる6つのコアスタンダードが書かれた小さなカードを取り出して見せてくれた。
図2 Share Clappingコアスタンダード
従業員が、これらを理解しているからこそ、入社希望者にShare Clappingコアスタンダードを伝えることができ、共感した人材への採用に繋がる。これが、離職率が低い秘訣の1つであるという。
3.仕事と家庭の両立支援を強化し、新たな採用形態も
Share Clappingは1983年に、寝具店を経営する「株式会社かわの」として設立し、1994年頃からウエディング事業を始めた。「株式会社かわの」前社長の母であった川野登美子さんは、寝具店時代、仕事と子育ての両立に大変苦労していたそうだ。そんな自身の経験がきっかけとなり、働く女性が家庭や子育ても両立できるような環境の整備に力を入れていたという。
現在、「株式会社かわの」は藤田観光株式会社グループの傘下となり、社名もShare Clappingへと変更しているが、仕事と家庭の両立支援や「自分がやっている仕事で、人が幸せになる。人を幸せにすると、自分も幸せになる。」という考えは、現在も色濃く残っているという。この昔からの風土でもある仕事と家庭の両立支援がShare Clappingの定着率が高い2つ目の理由だ。
両立支援の一環で、子供のいる従業員に優先的に土日休みが取得できる制度が設けられている。また産前産後休業・育児休業の取得を奨励しており、常時、取得中の従業員がいる状況であるという。
また、過去に結婚退職した女性従業員の中から「まだこの会社で働き続けたい」といった声が上がったことがきっかけで、2017年より、多様な環境の従業員が働き続けられるような制度を試行した。この制度は、正規従業員と非正規従業員の中間的な立場で、時短勤務ながら、業績によって成果報酬を受けられるといったものであった。しかし、始動から1年たった現在、本当に従業員にとっても会社にとっても良い制度なのか、もっと互いに成長しながらキャリアビジョンが描ける方法がないのか、という課題が見えてきたそうだ。
「現在はどちらかというと、独身のスタッフが多いのですが、今後は子育てをしながら長く働き続けられるような施策がより必要になってくると思っています。どの業界、企業様においても働き方改革に取り組まれているなか、弊社でも人材を持続的に成長させ、更なる発展をするためには、企業ビジョンと社員のビジョンを繋ぐ仕組みの構築が必要と感じています。昨年、働く環境改善の先駆けとして、新しい働き方の制度を試行し、若手の従業員が、子育てと仕事を両立する先輩従業員の姿を見て、『結婚したら続けられないから辞める』という考えを持たずに済む、と思っていましたが、1年取り入れてみて、「正規従業員として働き続けたい」といった意見が出るようになり、見直しが必要と考えています。従業員全員が納得のいく形で仕事に取り組める環境づくりは試行錯誤の連続ですが、目的は一つ、経験を生かし、活躍し続けてほしいということです」と天野総支配人は話す。
Share Clappingでは、従業員がより一層活躍できるように、18年10月より社内にプロジェクトチームを立ち上げ、コンサルティングの力も借りながらワークライフバランスシステムの構築を目指し大きく舵取りをしている最中だ。
4.感動をつくり、心震える瞬間が次のモチベーションへ
Share Clappingの定着率が高い3つ目の理由として、従業員の仕事に対するモチベーションの高さが挙げられる。これまで述べてきたような職場環境の改善や制度も大切だが、社内でいくら制度が充実していても、従業員が仕事に対してやりがいを持って働くことができなければ、定着は難しい。
「結婚式当日は担当者として責任を全うしながらも、目の前では一人の人間として感情が揺さぶられる瞬間の連続です。当社がつくり出す結婚式は、新郎新婦がこれまでの人生を少しずつ振り返っていくことから始め、お二人の出会い、さらには家族との関係、友人とのエピソードなどを、1つずつ振り返ります。同じストーリーの結婚式は二度とないので、その分産みの苦しみは大きいのですが、お客様と時間をかけてつくり上げた日々の先に、お客様から言っていただく『ありがとう』のうれしさは計り知れません。この仕事をしていて本当に良かったと思える瞬間でもあります」。こうした結婚式での感動と喜びが、従業員が仕事を続けたくなる大きなポイントとなっているようだ。
また、従業員のモチベーションを強化する取組として、年に1度、それぞれが手掛けた結婚式の中から「社内コンセプトウエディング大賞」を選出する表彰や、「身近な人にも幸せをシェアして感謝を伝えよう!」との思いから、スタッフの家族を招いておもてなしを行う「家族参観日」などを行っている。家族参観日は家族からも好評で、従業員にとっても「幸せをシェア」することの、やりがいを再確認する機会となっているそうだ。
取材担当者からの一言
取材時、天野総支配人が結婚披露宴の動画を見せてくれた。動画の冒頭では4人兄弟の末っ子が母親に向けて感謝の想いを泣きながら話す。
「お母さん、今まで女手一つで男4人を育ててくれてありがとう。1日中働いてしんどいはずなのに、そんな姿を見せないお母さん。いつも笑顔でいてくれてありがとう。今こうしていられるのは、お母さんの頼もしい背中を見て育ってきたからだと思います」。
結婚式とは新郎新婦の門出を祝うだけでなく、普段なかなか伝えられない感謝を思う存分伝えることができる時間である。新郎新婦がそれまで歩んできた日々の集大成、そして今後の人生の基盤となるような感動的な結婚式をつくりあげ、喜んでいただくことができる。このやりがいこそが、Share Clappingの女性従業員が仕事を続けたくなる大きな理由だと感じた。
たとえ、両立支援の制度があったとしても、仕事と家庭の両立は楽ではない。それを乗り越えるほどの「仕事の面白さ」がなければ、仕事から離れていくのではないだろうか。出産後も管理職を務める女性は、「上司等から仕事面で期待されたり、頼られていると感じられた」「自分のアイデアや企画を提案する機会があった」「自分の技術や能力を伸ばしていくことができた」という回答割合が高いといった結果もある(※2)ように、「仕事の面白さ」は男女区別なく、雇用継続の重要なポイントの一つといえるだろう。
※2 出典:中央大学大学院戦略経営研究科ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト(16年8月)「社員のキャリア形成に関する調査」
●取材日 2018年8月
●取材ご対応者
株式会社Share Clapping
総支配人 天野 真由美 氏
会社概要
株式会社Share Clapping
所在地:広島市中区三川町5-8
URL:https://www.marryaid.com/
業務内容:1983年に寝具店「かわの」からスタートした株式会社Share Clapping(シェアクラッピング)は、1995年に広島初となるブライダルプロデュース専門のブライダルサロン「マリーエイド」を開設。結婚式の本質を見つめ直し、より二人らしく『心からの感謝や感動を伝えられる』ウエディング、『心が震える』結婚式などの〝コンセプトウエディング″をつくりあげている。「一人でも多くの人に幸せを。この世界に拍手喝采の波を、もっと。」というミッションを掲げ、婚礼にまつわる全てのこと、婚礼後の幸せをより深めるためのトータルサポートを行うブライダルプロデュース会社である。
従業員数:49名
女性従業員比率:85.7%
女性管理職比率:60.0%
(2018年4月現在)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)