意気込まず、一人ひとりの適性を見ていたら、
自ずと女性活躍が実現

株式会社銀の汐

1.前例のなかったパートから社員登用で社内の雰囲気が一変

 株式会社銀の汐(以下、銀の汐)は、1943年に呉市で海産珍味加工業を始めたことがルーツであり、地元では「大塩するめ」の名で親しまれてきた。個人商店「銀の汐」を1993年に法人化し、現在は創業以来の主力商品である珍味をはじめ、豆菓子や焼菓子など幅広い商品の製造・販売を行っている。2016年に家業を継ぎ、代表取締役社長に就任した大塩義晴氏(以下、大塩社長)は、
「女性活躍といっても、これといって取り組んでいることはないです」と言うが、意識せずとも女性活躍に必要なアクションを一つひとつ着実に実行しているようだ。若き社長の女性活躍を含めた組織改革について話を聞いた。    

「もともと、家業を継ぐつもりはありませんでした」という大塩社長が、銀の汐へ入社したのは11年。生産部に一正社員として配属されたが、「外から入ってきた立場だからこそ、フラットな目で見ることができたと思います」と振り返る。当時、工場の正社員と女性パート従業員とのギクシャクした関係が気になったのだという。
「工場の生産ラインは、もともと女性パート従業員が主な担い手で、社歴の長いベテランも多かったのですが、慣習的に工場の管理を担う立場の正社員を中途採用していました。経験のない正社員と、経験豊富なパート従業員という構図で、互いに言いたいことを気軽に言えず、良い関係に見えませんでした」。 

 生産課長に就任後は、権限も増えたため、やりたいことがやれるようになり、改革を少しずつ始めた。まずは、正社員採用をやめ、パート従業員を正社員登用する方針に転換したそうだ。
「この人なら任せられるというパートの方がいましたので、あえて新たな人材を正社員として採用するのではなく、能力が高くやる気のあるパート従業員の方に正社員になっていただいた方が、現場がうまくいくと考えました」。
 最初の登用は、長くパート従業員として働いていた方で、経験も十分。「周囲との関係性も良く、誰がみても納得」と思われるような存在だったのが成功要因だったそうだ。

 こうして、パートから社員へ登用し、さらにその中から18年に初の女性工場責任者が誕生して以降、現在は生産部、営業部、管理部の各部門で女性管理職が活躍している。人員管理や生産計画マネジメント業務に必要な知識やスキルは、これまでの現場での経験に加え、上司や周囲のサポートを受けつつ、走りながら学び、実力を付けていったそうだ。
「女性活躍を意識して、人員の配置をしたことはありません。能力が高く、やる気もあり、この人なら任せられるというメンバーが、たまたま女性だったという感じです」と、大塩社長は言う。

2.適性と能力を見て、一人ひとりに合った活躍の場を

 16年の就任以降、会社のリブランディングやITの活用による業務効率化にも着手しているそうだが、それと並行して、部署を横断した人員の異動、職域の拡大にも積極的に取り組んでいる。例えば、20年10月に営業部事務課から品質保証室に異動した太刀掛友紀係長(以下、太刀掛係長)は、入社以来16年間、営業事務一筋だったそうだが、受発注システムの導入に携わった経験もあり、現在は、同室で生産部門のITを活用した業務効率化の責任者としても活躍中だ。
 現在、社長が次のアクションとして考えているのが、営業部販売課での女性の採用だ。
「生産部や管理部、営業部事務課では、女性が多く活躍していますが、営業部販売課は、歴史的にも男性のみの職場です。企業として持続的に成長するためには、新規営業先開拓は重要なミッションで、当社の扱う商品の特性を考えても、女性に是非活躍してもらいたいと思っています」。
現在、コロナ禍で一時的にストップしているそうだが、今後、女性営業職の採用を予定しているという。
「もともと部署を越えての異動は行っていませんでしたが、同じ業務だけを続けていると、どうしても考え方が固定化したり、視野が狭くなったりしてしまう。もちろん、その人の適性などを判断しながらですが、性別に関係なく、能力が高くやる気のある人材には、いろいろな部署で活躍し、さらに成長してもらいたいと考えています」。

3. 次に見据えるのは、女性経営層の誕生

 現在、5名の女性管理職が活躍している同社だが、次のステップとして、課長、部長といった社内の上級管理職への女性登用を目指す。
「経営層となると、これまでの働きぶりや実績はもちろんですが、人柄など定性的な面の重要度も増してきますし、求められるものも一段上がります。そういう意味で、プレッシャーに感じるかもしれません。ただ、経営層が男性でなければならない理由もないですし、社内にも、「この人なら任せられる」という人材も育ってきています」と、大塩社長は話す。

 今いる人材にしっかりと目を向け、能力や適性、置かれた環境なども考慮しながら、「任せられる」人材に声掛けし、必要なサポートを受けられる環境で、積極的に登用するという一連のステップが、女性活躍につながっているようだ。

取材担当者からの一言

  

 「女性活躍を意識したことは一度もない」と、大塩社長は言うが、ニーズを読み、会社が変化し、「ありたい姿」に近づくために必要なアクションを淡々と進めた結果、女性が活躍する会社になっている。
「大塩社長は、従業員の意見に耳を傾けてくれ、裁量を与えてくれています」と太刀掛係長も話してくれたが、先代からバトンを受け、大塩社長らしいスタイルで、家業をリブランディングし、組織をアップデートしているようだ。 

●取材日 2020年12月 

●取材ご対応者
代表取締役社長 大塩 義晴 氏
品質保証室 係長 太刀掛 友紀 氏

会社概要

株式会社銀の汐
所在地:呉市広末広1-4-24
URL:https://www.ginnoshio.com/
業務内容:本社のある呉市をはじめ、県内3カ所の工場を持ち、「GOOD TASTE ,GOOD SMILE」をコンセプトに、珍味類や米菓やチョコレート、焼き菓子の製造を行い、東京、大阪をはじめ5拠点の営業所を通じて、全国各地へ販売している。その他、10店舗を超える飲食店のFC店舗運営も行う。
従業員数:114名
女性従業員比率:74.6%
女性管理職比率:26.3%
(2020年12月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com