ポスト・コロナ時代に対応
適散・適集社会の実現へ
インタビュー2021 広島県 湯﨑 英彦 知事
-昨年10月に新たな計画「安心・誇り・挑戦 ひろしまビジョン」を策定されました。
これまでの「仕事も暮らしも。欲張りなライフスタイルの実現」を基本線に、コロナや災害対策、デジタル化推進を加えて次の10年間のビジョンを描きました。東京一極集中という過度な集中を課題に挙げ、「適散・適集社会」を目指していく。加えて産業イノベーションや持続可能なまちづくりなど各分野を進めていく上で、3つの視点「DXの推進」、「ひろしまブランドの強化」、「人材育成」を掲げています。
-適散・適集社会とは。
コロナで意識された三密のリスクに対し、適切な分散が必要だと考えます。一方、「知の交換」を行ってイノベーションを進めるためには一定の集中・集積も必要。それが過剰になると、三密状態で、今のような感染症リスクもあれば災害リスクもある。そこで仕事をしたり暮らしたりするのが難しくなったり、生活のクオリティが低くなることもある。だから、過剰ではなく、適切な集中が必要となります。これが新しいポスト・コロナ時代のあり方で、過度に集中していないし、過度に過疎でもない。それが人間らしいライフスタイルを取り戻す意味でも必要だし、そういう環境の中だと「仕事も暮らしも」という両方を欲張りに、自分の希望を追求できる環境が実現できると思います。
-県の人口が280万人を割り込みました。
自然減、社会減の2つがありますが、社会減対策では広島の魅力を高めることが大事です。そのためには働く場所の提供に加え、広島のブランド力を高めていくことが非常に重要だと思います。ブランド化は先ほどの3つの視点の1つです。いろいろな施策を進めていく上で、暮らしやすさ、都市と自然の近接性といった広島の強みを価値として理解していただけるように発信していきたい。
具体的な施策として、中山間地域や観光施策の中にもブランド化を取り入れています。さらに、デジタル化が進むとオフィスは東京じゃなくてもいいでしょうから、デジタル系の企業を中心に直接誘致をしていくというのももちろんあります。リモートオフィスなどさまざまな施策で、新しい適散・適集社会をつくっていって、「広島は住みやすい、ライフも充実、仕事も充実」といったブランドイメージを総合的にアピールしていきたいと思います。
-就職に伴う若者の流出を課題に挙げられています。一方、県内企業では採用難の企業が多数あります。
今足元ではコロナで人が少し余りつつあるが、長期的にみれば人口が減ります。特に労働人口が大きく減って若い人たちの争奪戦になっていく。そういう意味では地方の中でビジネスをして、それなりなところに安住するわけにはいかなくなります。よく企業のことを知らないで県外へ出ていく人たちもいるので、それをできるだけ抑える努力は必要。積極的に自社の強みを理解してもらえる努力を強めていかなければならないと思います。県だけでなくその他の商工関係の団体もいろんな支援策に投資しているので、活用しながら自らの魅力をアピールしてもらいたい。
広島の学生にももちろん残ってもらいたいが、出ていく子たちもいる。自分が求めるものが広島ではなくほかにある子たちには希望を後押ししてあげる方がいいと思う。問題は出た学生の数だけ入ってきていないこと。広島は魅力にあふれた企業があるから、そういうところにマッチする人たちは必ず県外にもいる。その人たちにちゃんと発見される工夫が必要となります。
-今春ヴィーバが広島に拠点を開設予定です。企業誘致の手応えは。
オフィス系企業の移転等に対する支援を今回の特別対応でかなり手厚くしました。問い合わせをたくさん頂いております。そういう意味ではすごく手応えがありますし、県内での移転等は直近3年間で11件、14件、15件と推移していたのが、2020年は9月末で11件来ており、実際に数も増えていることから、皆さんに関心を持っていただいていると思います。コロナの影響もありますが、サンドボックスなどデジタル系で注目されている施策も実施していますし、そういったことが相乗的に効いているのではないかと思います。
-県が力を入れるDX(デジタルトランスフォーメーション)の進ちょく状況は。
DXを推し進めるべく、県内の経済界、企業や教育機関、行政も加わって「DX推進コミュニティ」をつくりました。DXの勉強会や事例研究などの活動を通じて,各主体のDXの実践を促していきます。また具体的な取り組みでは、例えば今、移住相談にAIを使っています。これについては、単に人の相談をAIで置き換えただけじゃないかといわれるとそうなのですが、人だと午前9時〜午後5時など窓口の時間が決まってしまいますし、休みも必要。1日で受けられる件数が限られますが、AIでやると、ほぼ同じ効果が生まれ、1日何件でも処理できる。その分、人はより確度の上がった案件に集中できます。これなどは、本当にDX的なものだと思います。ただ置き換わっただけでなく、質的に変化が生まれるくらい量が変化しますから。サンドボックスもオリジナルの9件から、いろいろなパートナー企業のリソースを提供していただき、プロジェクト自体は何十件と増えています。また、行政課題解決型といって、土木の法面崩壊予測システムなども進んでいます。これを社会的なウエーブにしていく必要がある。
-7月から広島空港の民営化が始まります。
コロナ禍の中で正直どうなるかと心配していましたが、結果としてはパートナーに選ばれた企業グループの目標が非常に高く、期待しています。近年の利用者年間約300万人に対し、倍近くとなる586万人の目標を掲げており、路線もアジアを中心に再誘致することになっています。
-サッカースタジアムは24年中の開業を目指しています。
いろんな意見があるが、開業目標に固執するあまり何かを犠牲にするのは適切ではないと考えます。一番大事なのはみんなが楽しめるスタジアムとすること。それがないと持続可能性に欠ける。長期間にわたり、スタジアムだけではなく中央公園一帯など周辺にもにぎわいをつくる。広島市内だけでなく県内全域、中国地方、四国地方の広域から行きたいと思ってもらえるものにしなければならないと思います。
今作るものは50年存続します。つまり今後50年の街づくりに影響を与えるので、半年や1年の差で一番大事なことが実現できないのは本意ではない。結果として使えないから30年で立て替えることになれば、無駄になる。ハードの整備だけでなく、コンテンツ面もそうした考え方で進めていく必要があると思います。
-202 1年の抱負をお聞かせください。
まずはコロナをしっかりとコントロール、制御していくことが重要です。その上で回復を目指さないといけないのですが、ただ単に以前に戻るということではない。世の中が変わってしまった部分がありますから、その変化を先取りするような新しいことにチャレンジしないといけない。県民、企業の皆さんがポスト・コロナの時代に目指すべき方向、ビジネスモデルをしっかり準備し、できるのであればすぐに転換を始める、それを県としても支えていくような年になれば良いですね。その結果として、適散・適集社会という新しいビジョンを実現するための良いスタートを切れればと思います。
例えばテレワーク1つとっても、もっとちゃんとやればできることはたくさんある。当然テレワークよりもオフィスでやった方がいいこともあるが、まだはっきり仕分けが付いていない状況だと思います。やり方をちょっと変えれば、オフィスでの働き方、テレワークでの働き方、それぞれをもっと生産的にできる。この微修正を行いつつ、問題点を解決しながら最適解を見つけていく必要があるでしょうね。