実態把握や声掛けで残業削減・有休取得
研修で横のつながり作り、人材定着へ

日塗株式会社

取り組んだ背景
 ~従業員の声から取組開始、採用力向上も目指す

 1970年に創業。全国13拠点を有し、マンションやビル、橋梁、プラントなどの改修・塗装工事を手掛ける。「長時間労働を改善してほしい」との従業員の要望を受け、部門長が出席する経営会議で議題として取り上げたことをきっかけに取組をスタートした。2018年、部門長10人による人事労務管理改善委員会を設置。社内アンケートを行い、時間外労働の削減をはじめとした働きやすい会社づくりへと取組を進めた。
  建設業は時間外勤務や休日出勤が多いイメージがあり、特に売り手市場や大手志向の高まりも影響し、17年度は11人の採用予定に対して7人、18年度は13人に対して8人、19年度は23人に対し15人と、求める人数を確保できない状況が続いていた。働きやすい環境を整えることで、従業員だけでなく学生の印象を良くして採用活動につなげたいとの思いもあった。

主な取組と工夫点

◆事前申請制と上司による声掛けで長時間労働削減
 従業員からの要望で最も多かったのが、「長時間労働を是正してほしい」との声。そこで月末に提出する「就業報告書」で報告していた残業を「事前申請制」に変え、残業時間や理由を事前申請し、上司の承認を受けるようにした。社内イントラネットで周知し、19年4月から全事業所で一斉に運用を開始した。これを契機に、部門長が定時退社を促す声掛けを積極的に行うようになり、帰りやすい雰囲気づくりにつながっているという。総務部長の岡﨑正満氏は、
「以前は終業の午後5時を過ぎても他の人が残っていると帰りづらく、いつまでも残っている人が多かった。今は上司が率先して定時退社を促すようになったほか、承認を受ける必要があるので本当に必要な残業かどうか考えるようになったこともあり、皆がメリハリをつけて仕事をこなし、定時に帰ろうという意識につながっていると感じます。工事部門では片付けなどで終業時間に終わらないこともありますが、事務部門ではほぼ残業がない状態を維持しています」と話す。
会社全体や部門ごとの残業時間を集計し、前年比と共に毎月の経営会議で発表。17年度の1人当たりの月時間外労働時間は19.11時間だったが、18年度は16.53時間に減少した。

◆有休取得状況の把握や計画取得により、有休取得促進
 有給休暇の取得促進では、18年から毎月の経営会議で部署ごとの取得率を発表し、取得率が低い部署の改善を指導している。また、各部署には有休管理表を配り計画取得に役立てているほか、取得が進まない従業員には部門長から個別に声掛けし取得を促している。現場の状況を聞き取り、土曜日の出勤日に休ませたり、現場が一段落したときにリフレッシュ休暇として5日間などのまとまった休みを取らせたりしている。部署で共有するグーグルカレンダーに有休の予定日を書き込み、相互に把握することで、お互いに業務をカバーし合えるように工夫した。これらが奏功し、有休取得率は17年度の39.2%から18年度には50.5%に、1人当たり取得日数も6.5日から8.5日に増えた。

◆女性が活躍できる会社へ、全国一斉研修や社内カフェ設置
 「就職を考える学生に、女性も活躍できる会社だと思ってほしい」との代表取締役の小川恭史氏の思いから、女性従業員の働きやすさ向上にも力を入れる。従業員の要望を受けて2~3年前に事務服を刷新したほか、19年11月には全国の女性従業員が一堂に会する研修会を開いた。岡﨑氏は
「女性が1人だけという事業所も多い。皆でコミュニケーションを取ってもらい、情報の共有や困ったときに相談できる人を見つけてほしいとの思いで実施しました。『また開催してほしい』と好評だったので、毎年続ける予定です」。
また、営業や積算など事務職以外でも女性従業員が増えてきた広島支店は、17年に事務所を改装。女性の意見を基に休憩や談話に使えるカフェを設けた。自販機、テーブル、ソファやテレビがあり、休憩などに活用されている。19年度には新卒で女性3人が入社するなど、順調に増えてきているという。

◆若手従業員の定着へ、同期が集う研修を充実
 入社時の研修以降は、さまざまな部署・現場で働くため、同期や同年代が集まる機会は少なかった。悩みをざっくばらんに話してもらうため、入社3年以内の若手を対象にした研修を19年に初めて開いた。
「心にため込んだものを吐き出し、またそれぞれの持ち場で頑張ってもらいたい。若手研修は今後も毎年行う予定です。また、新入社員研修は入社時に行っていますが、定着化に向けて半年後にフォロー研修を行うことなどを検討しています」と岡﨑氏。

取組の中で苦労したこと
 ~部署によって成果に差、継続した取組が不可欠

 事務系の部署では残業削減・有休取得で共に一定の成果が見えたが、客先の方針や工程に従わざるを得ない工事現場では思うように進まないこともあった。業務の分担や効率化を進めるとともに上司からの声掛けも行い、「休みたいときに休める」環境の実現に向け、継続的に取組を進めていく。 

取組の成果
 ~残業削減、有休取得促進ともに前進

 残業の事前申請制や部門長の積極的な声がけが奏功し、会社全体に早く帰りやすい雰囲気が生まれた。時間内に仕事を終わらせようという意識が従業員に芽生えたことで生産性も向上。有休取得率、日数も共に改善した。職場の雰囲気についても「以前は皆が残っていると帰りづらかったが、今は残業する時は事前に申請が必要になったので早く帰りやすい雰囲気になった」や「皆が早めに休みを申請するようになったので以前より休みやすくなった」といった声があがっているという。

課題や今後の目標
 ~取組を継続し、有休取得60%以上の継続へ

 「今回の取組では残業時間の削減、有休取得の促進共に一定の成果が得られた。今後も取組を継続し、有休取得率60%以上を保ちたい」と岡﨑氏。
また、「不必要な残業を減らし、そのコストを手当や給料に還元したい。休日についても完全週休2日制を目指すなど待遇面の充実を図り、人員の確保や定着につなげていきたい」と今後の展望を話す。

従業員からの評価

広島支店第二工事室
安野 亮 氏
 時間内に終わらせる意識を持ち、出社時に1日の工程をメモに書き、優先順位をつけて仕事に取り組むようになりました。以前は午後9~10時までだらだらと残業することもありましたが、現場の合間の時間に事務仕事を終わらせるなど、業務効率が上がったと思います。早めに帰宅することで肉体的にも精神的にも余裕が生まれ、子どもを風呂に入れたり家事を手伝ったりできるようになりました。妻も喜んでくれ、家庭円満につながっています。

広島支店営業・診断グループ
沖野 夢佳 さん
 会社が働き方改革に取り組み始めたことで上司が他の従業員に「休めるときは休んでね」と声がけしているのをよく見かけるようになり、「休んでいいんだ」と思えるようになりました。以前は会社全体がどこかせかせかとしている感じがありましたが、今はとても雰囲気が良くなったと思います。現在、第二子を妊娠中ですが、つわりの時などに上司や周りの人が「横になっていていいよ」と気遣ってくれ、安心して働けています。

取材日 2020年2月

会社概要

日塗株式会社
所在地:福山市曙町1-10-10
URL:https://www.nitto-net.co.jp/
事業内容:マンション、ビル、橋梁、プラントなどの改修・塗装工事
従業員数:226人(男性193人、女性33人)
(2020年2月時点)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com