ライフスタイルで「3つの働き方」選択
副業導入、外国人受け入れなどの改革も

医療法人社団明和会

取り組んだ背景
 ~業界全体で人手不足が深刻化

 1994年に廿日市市に療養型の医療機関として開院。リハビリの中でも、摂食嚥下(えんげ)訓練などの「食べるリハビリ」に注力している。以前は10%を下回っていた離職率が、2016年以降は12~13%に上昇。新規の採用活動も1カ月ほどで済んでいたが、2~3カ月と長期化するようになった。また、介護スタッフの一部が時給の高い異なる業界に転職するなど、人材の流出は業界全体の課題となっている。会長の久保隆政氏は、
「医療・介護サービスの質は人に起因するところが大きい。また、人手不足が原因で病床数を減らさなければならない病院も増えてきました。高齢化が進み、医療・介護サービスの需要は増える一方、業界の人手不足はますます深刻化しています。当院では他の医療機関と比べて働きやすい環境が整っており、まだ人材確保ができている。それでも取組を進めたのは働き手が減る中、5~10年先を考えたときの危機感も大きな理由の一つです」と話す。

 県の社内推進人材養成セミナーに参加した職員が中心となり、課題整理、方針、取組の立案を実施し、18年12月に久保氏が働き方改革の取組を宣言。19年4月から制度運用を始めた。

主な取組と工夫点

◆3つの働き方を選択できる制度の導入
 取組に先駆けて実施した従業員アンケートの結果、「子育て中で今は仕事をセーブしたい」、「もっと働きたい」などさまざまな事情を抱えていることがわかり、それに応える必要があると考え、19年4月に「従来型」、「ワーク重視型」、「夜勤専任型」の3つから自己申告で働き方を選べる制度を導入した。従来型は従来の社内規定のままの4週10休で、9割以上の従業員が選択。ワーク重視型は、キャリアアップしたい、収入を増やしたい、仕事を重視したい人向けで、4週8休、手当て・年末の特別賞与などがあり約1割の従業員が選んでいる。夜勤専任型は、昼に時間がほしい、収入を増やしたい人向けで現在1人が利用している。ワーク重視型や夜勤専任型は健康への負担・体調の変化などがないか、2カ月に1度の面談で細かくチェックしている。

◆副業でスキル向上、法人の事業機会拡大にも期待
 併せて副業制度も導入した。従業員の新たな知識・スキルの習得のほか、自己実現や所得の増加によるモチベーションの向上、そして法人の事業機会の拡大などに期待を寄せる。制度では情報漏えいを防ぐため、同一地域・業態の就業を禁止。副業で障がい者グループホームでの介護や研修会の講師などを可能としている。実際に、医師や相談員、社会福祉士、看護師が、在宅介護の工夫や医療介護制度の仕組みについてセミナーなどを実施している。業界全体で人手不足が進んでおり、副業を導入することで業界の人材が持つノウハウを共有し、補い合う環境の整備にもつなげたいという。

◆外国人実習生を受け入れ、多様性のある組織へ
 20年2月以降、特定技能実習生としてベトナム人5人が新しく仲間に加わる。毎年複数人の受け入れを検討しており、今後の受け入れについてミャンマーも視野に入れている。久保氏は、
「採用コストが高く、言葉や文化の違いなど不安もありますが、フォローしあえる環境づくり・仕組みづくりへの挑戦」だと話す。

◆3カ年計画の業務改善と管理者育成
 従業員アンケートの結果、法人の強みは従業員が仕事への誇りややりがいを持っていること、弱みは業務効率や業務のマネジメント不足などがあると判明した。医療現場には、患者と接してサービスを提供する「直接業務」と、カンファレンスやカルテ記載などの「間接業務」がある。この業界の生産性向上は、いかにして間接業務を減らし直接的に患者に接する時間を増やすかにかかっているという。そのためトップダウンで、3カ年計画で生産性向上に取り組むことにした。間接業務の削減に向け、約2年をかけて業務の洗い出し、マニュアル化、運用、改訂を繰り返した。事務作業はシステム化し、掃除・洗濯はアウトソーシングした。働き方改革推進担当者でパートナーシップ推進室の松原かほり室長は、
「ただ一度見直して終わるのではなく、PDCAサイクルを回しながら改善を続けています」と話す。
 19年5月からは、人材育成・管理で経験豊富な看護部長を招聘し、初めて研修合宿を行うなど管理者の育成にも力を入れている。
「優秀な人材の育成が、質の向上、利益の確保や環境改善につながります。結果的に従業員に報酬として還元でき、満足度の向上につながればと考えています」

取組の中で苦労したこと
 ~改革の成果・結果を見える化し、従業員にメリットを

 松原室長は、
「18年末に改革の宣言をしたものの総論賛成・各論反対という雰囲気がありました。話を続けるだけでは分かってもらえない。取組を着実に実施し、少しずつ成果・結果を出すことで、従業員にメリットを感じてもらうことが必要です」と話す。

取組の成果
 ~副業が徐々に浸透、全従業員の5%に当たる9人が実施

 19年4月の制度導入から、着々と副業にチャレンジする人が増加。現在、全従業員の約5%に当たる9人が副業に取り組む。既に副業を始めた従業員からは「外の組織で働くことで視野が広がった」、「気持ちをリフレッシュできる」などの声が上がっているという。従業員のモチベーション向上のほか、スキルアップや本業との相乗効果にも期待しており、新たな事業への取組や人材育成につなげたいという。久保氏は、
「まだまだ副業の希望者は増えてくると思います」と展望を話す。

課題や今後の目標
 ~モチベーション向上や、やりがいの醸成へ

 新たな制度の構築に伴い、管理職の仕事量は増えた。また、副業制度や新しい働き方の選択肢が増えたことで、シフト組みや部下の体調管理などは煩雑になっているという。今後、管理職の育成や組織の体制を整えて改善を図るほか、モチベーションの向上ややりがいの醸成に向けて、役職と能力に応じた評価制度を整備し直す方針だ。久保氏は、
「従業員には自分にとってプラスになる働き方を選んでほしい。仕事を通じて皆の人生がより豊かになるのが一番の願い。より良い職場づくりに向けて取組を続けます」と語る。

従業員からの評価

看護部 介護福祉士
奈良本 つぐみ さん
 私はスキルアップのためワーク重視型を選択。高齢者の医療・介護サービスを担当し、充実した日々を送っています。
 職場での経験を外でも生かしたいと思い、副業にもチャレンジしています。月に1~2回、ほかの事業所の障がい者グループホームで食事補助などを行っています。普段接することのない、障害を持つ子どもや大人の方と関わることで、よい刺激を受けています。視野が広がり、学びがあります。副業は続けたいですね。

取材日 2019年10月

会社概要

医療法人社団明和会
所在地:廿日市市丸石2-3-35(大野浦病院)
URL:http://www.onoura.or.jp/
事業内容:医療・介護サービス業
従業員数:197人(男性59人、女性138人)
(2019年5月時点)※パート含む

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com