担当業務を見える化し業務の偏りを是正。
個々が責任感を持って働ける環境に

社会保険労務士法人 野島事務所

取り組んだ背景は?~
 忙しく働く従業員の気持ちのゆとりを取り戻す

 福山市を拠点に、人事労務に関するコンサルティングや給与計算・届け出等の代行など、社会保険労務士業務全般のサービスを提供している同法人。時間に追われる仕事が多いため、残業が多く有給休暇取得率も低かった。オフィス内には余裕がなく、他のスタッフのフォローの事までなかなか考えられなかった。

「引き受ける仕事量を減らさず、時間をかけずに働くには効率化しかありません。採用を増やすことも含め、さまざまな改善を重ねていた時、社会全体で働き方改革が取り上げられるようになりました」と代表の野島正貴氏。
「私たちはお客さまの人事や労務をサポートする立場。まずは、自社で働き方改革にチャレンジする意義を感じ、取組をスタートさせました」

 方針として掲げたのは「従業員の教育を充実させることにより不安や躊躇を解消し、従業員一人一人が自信と積極性を持ってサービス向上、業務効率を改善することにより生産性の向上を図る」という目標。野島氏が考える、組織の理想形を反映している。

取組導入のプロセス~
 全体ミーティングで休暇・残業の現状を共有

 まずは、自社の働き方の現状を数値として把握することから始めた。月例のミーティングを活用して、従業員全員の残業時間、有休取得率の状況を確認し全体で共有。その上で、2021年3月31日までに「有給休暇の取得を1人当たり年間8日以上とする」「所定外労働時間を1人当たり月間15時間未満にする」という2つの目標を設定した。

主な取組と工夫点~
 ソフトウエア導入・勉強会などを通じて情報共有を図る

◆業務の複数担当制と、点数管理による業務負担の平準化
 同法人では、以前は1人の従業員がクライアント1社をトータルで受け持っていたが、新しく複数担当制を導入。情報の共有化を図ることで、休暇を取りやすくする環境を整備した。複数担当制に当たっては、業務をカテゴリー(全体的な管理・各種手続き・給与計算など)で分け、各担当の業務範囲を明確化した。
「誰が担当するのか曖昧だった仕事がなくなり、以前よりも進めやすくなりました。個々の役割を決めてチームで顧客をサポートするので、みんなに責任感が芽生えてきたと思います」と、社会保険労務士の駄賀氏は話す。
さらに、随時担当見直しを行うことで、仕事のブラックボックス化を防止した。また担当する仕事の質とボリュームをいくつかの要素に分け、独自の方法で点数化。半年に一回の個別面談を行い、一人一人の業務負荷を調整しバランスの偏りをなくした。

◆情報共有をスムーズにするグループウエアの導入
 3年ほど前からクライアントと担当者および事務所内での情報共有・交換できるグループウエアを導入した。業務の進捗状況や顧客の管理をはじめ、従業員の日々のスケジュール・休暇などの情報も共有できるようになった。従来のように、担当者とクライアントのメール交換だけで案件が進んでいると、担当者以外は状況が分かりづらかったが、グループウエアによる情報のシェアにより、リアルタイムで現状を把握できるようになった。

◆勤務時間を選べる短時間正社員制度
 同法人は女性従業員が多い職場で、設立当初より育児・介護といった家庭の事情に合わせて、働く時間を選べる正社員制度を採用していた。現在、制度化されているのが、6・7・8時間の短時間正社員制度。社会保険が適用される6時間勤務からを正社員と捉え、7時間・8時間など数パターンの月給を基本に、微調整を加えて給与を支払っている。
 勤務時間の選択については、定期的な個別面談でそれぞれの家庭環境の変化や、働き方の希望をヒアリングし、柔軟に対応している。短時間勤務でも安定した正社員として雇用することで、意欲・能力のある人材を確保し、成長を後押しできると考えている。

◆個々の能力アップを図る月1回以上の勉強会
 5年ほど前から、月1回以上の社内勉強会を開催している。発表者は持ち回りで、日々の業務の中からタイムリーなテーマ(特殊手続きの例・働き方改革など)を選択。勉強会は午前中の1時間程度で、必ず勤務時間内に行い、実施中は電話に出ないことをルールとしている。
「発表者は、インプットした情報や知識をアウトプットすることで自信を持ち、普段の業務の中でも迷いや不安を感じなくなっているように思います。効果が少しずつ現れはじめた段階でしょう」と野島氏。

◆多彩な社内レクでコミュニケーションを活性化
 月1回のランチミーティングをはじめ、親睦を深めるさまざまなレクリエーションを不定期で開催している。野球観戦やアクティビティー(ラフティング・シーカヤック・魚釣りなど)の参加率は、毎回ほぼ100%。これらの効果もあり、以前は社内が静かな雰囲気だったが、次第に従業員同士のコミュニケーションが活発になってきた。

取組の成果

 残業が多かった頃は、取りあえずの忙しさを解消するために求人募集を掛けるという、いわば「後追い採用」を行っていたが、取組スタート以来、中長期的な視点での繁忙予想や、課題に応じた採用ができるようになった。従業員の負担を減らすために「こんな人に入社してほしい」という人物像も明確になってきている。またクライアントに対して、経験者の立場から「働き方改革」を提案できるようになり、その取り組み方や企業ごとに工夫すべきポイントなどを、具体的にアドバイスしやすくなった。

◆労働時間・休暇(直近1年間)
・常用雇用者の総実労働時間(1カ月平均)が150.5時間
・常用雇用者の年次有給休暇の平均取得率が78.1%

◆多様な働き方(直近3年間)
・育児・介護を除く、短時間勤務・短時間正社員制度を2人が利用

◆非正規雇用(直近3年間)
・非正規社員から正社員へ転換する社内制度を2人が利用

従業員からの評価

 入社2年目の門田さんは、子育ての最中であることから9~14時までの短時間勤務制度を利用して働いている。
「私たちの希望に合わせて、時短や勤務日数短縮などに応じてもらえるので助かっています。子どもの手が離れたら、将来的には正社員として働きたいです。自分の中に目標がありますので、スキルアップの意欲も湧きます」と話す。

 改善を進めていく中で、非常に役立ったと感じるのがグループウエアの導入だという。「各担当のスケジュールを随時確認し、空き時間を狙って手続きや報告ができるため、合理的に仕事を進められる」「自分の休暇予定などを社内共有できるようになったのも便利」「子育て中の従業員が数名在籍しており、『お互いにフォローしよう』という気持ちが浸透してきたため、入社時よりも社内の雰囲気がとても和やかになった」といった声が上がっている。

今後の目標など

 残業時間削減と有給休暇の取得率アップを目標に取り組み中だが、
「これらの達成が目的になり、仕事量が減って収益が下がっては意味がありません」と、野島氏は話す。
目指すところは生産性の向上。そこで、残業を含めた1カ月の労働時間と粗利益を出し、従業員1人当たりの生産性を数値化している。
「残業を減らして有給休暇を取得しながら、一定の売り上げを確保するには、効率化が重要ですし、場合によっては報酬体系の見直しも含めて検討することも必要かもしれません。いずれにせよ長期的なデータが必要です。今後も数値化を続けて、適正な方法を探っていきたいです」と野島氏。

 同法人は広島県の「仕事と家庭の両立支援企業」や「仕事と介護の両立支援企業」に登録し、「ふくやまワーク・ライフ・バランス」にも認定されている。業務の経験値や家庭の事情などは従業員ごとにさまざまだが、誰もが働きやすい環境を提供し続けながら、戦力となってくれる少数精鋭のメンバーを今後も育成していきたいという。

取材日 2019年2月

会社概要

社会保険労務士法人 野島事務所
所在地:福山市草戸町3-1-20 ローズ草戸ビル1階
URL:https://office-nojima.net/
事業内容:社会保険労務士業
従業員数:7名(男性2名、女性5名)
(2018年11月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com