トップと従業員の密なコミュニケーションで、
業務の改善や有給休暇の取得を推進

蔵田ファイリング株式会社

取り組んだ背景は?
 ~相次いた退職で、戻りたくなる会社を目指した

 オフィスや図書館、医療・福祉施設などに、物流機器や環境機器の販売・施工等を行う同社。経営理念である「『お客様の、快適な環境を創造する会社』として、社会に貢献し、社員各人の生活の向上及び能力の向上」の完全達成を目指して、働きやすい「良い会社」の実現を少しずつ進めてきた。ところが2008年頃に、新卒入社6年目の従業員が相次いで退職。
「育ってきた従業員を失い、私自身のダメージはとても大きかったです。反省をする中で、“退職者がまた戻りたくなる会社”を目指そうと決意しました。振り返れば、それが働き方改革の原点です」
と、取締役社長の川上康夫氏は語る。

取組導入のプロセス
 ~社長と従業員の年4回の面談で意見を吸い上げる

 まず社長が、従業員の意見を聞くことからスタートした。09年4月より年2回の「業務改善面談」、同年7月より年2回の個人別の年度計画進捗についての「自己申告面談」を実施し、社長と従業員のコミュニケーションを図った。これらの面談から従業員の意見を吸い上げながら、より良い会社を目指して改善を進めるという取組は、10年たった現在も続いている。

主な取組と工夫点
 ~有休の促進と業務改善提案をくみ上げる仕組み

◆年2回の業務改善提案面談と業務改善面談説明会を実施
 前述の「業務改善提案面談」は、毎年4月と10月、課長代理以下の従業員と社長が一対一で実施している。事前に業務改善提案書が配布され、従業員が記入した提案書を見ながら、労働時間や賃金、困っていること、体調など、従業員の個々の状況や要望などを聞く。後日、全従業員を集めて「業務改善提案面談説明会」を開き、社長が集約した意見を公表し、改善策を報告している。実現した改善事例としては、社内会議時間の短縮、業務に関連する資格取得の支援、必要備品の購入などが挙げられる。
「面談を始めた頃は、意見がたくさん出て時間もすごくかかっていましたが、だんだんと少なくなりました。それだけ環境が良くなり、働きやすくなっている証しだと思っています」
と川上氏。

◆年6日のリフレッシュ休暇や記念日休暇で、メリハリを付けて働く
 会社が付与する有給休暇のうち、年6日をリフレッシュ休暇として設定し、「取得率100%」を目標に、全従業員の取得を促進している。これについて、
「働く時には働く、リフレッシュのために休む時にはしっかり休む。メリハリを付けて働いてほしいという思いのもと始めました」
と、川上氏は語る。基本的には連続して6日間、土日を絡めて10連休にすることを推奨しているが、分割して取得することも可能だ。毎年1月から始まる会社カレンダーには、従業員の1年間のリフレッシュ休暇の取得予定日を記し、確実に取得できるように会社全体で配慮している。年間のスケジュールの中に予定を入れ、全体で把握することで、計画的な業務の遂行が可能になり、ジョブローテーションを行うなど休みやすい工夫を行っている。
 その他に、誕生日や結婚記念日などの記念日休暇、30歳以上の従業員が全額会社負担の人間ドックを受診した日を有給休暇として扱うなど、取得しやすい環境を整備。子どもの参観日などで半日休暇を取得することも可能にしている。これらの取組により、有給休暇の平均取得日数は17年の6.4日が18年には10.3日と増加している。

◆時間管理の徹底と資料の工夫で、会議時間を短縮
 「昔は、会議時間が非常に長いという問題がありました」
と述懐する川上氏。会議の短縮を図るため、開始時刻と終了時刻を明確にし、項目ごとに時間を定めたタイムテーブルを作成した。全員で会議を行う時には、タイムキーパーを置いて時間も管理する。会議の資料は事前に渡し、全員が内容を把握するとともに、発表者は持ち時間を守るようにルール化した。全従業員が一人ずつ年度計画進捗を報告する発表会では、以前は全ての項目を発表していたが、資料の中でポイントが分かりやすいよう「○、△、×」を付け、改善が必要なことだけをポイントに絞って報告するように工夫した。こうした取組の結果、会議時間を半分に短縮できた。

◆中堅従業員を異業種の海外研修に派遣
 入社5~6年目の中堅従業員を、全国の企業が集まって行う海外研修に会社負担で派遣している。一つのテーマを異業種の人と話したり、海外の企業を訪問したりすることで、人的なネットワークを拡大し視野を広げることが目的だ。タイやメキシコなどに設備を納品する際には、海外研修を経験した従業員が担当したが、
「現地の言葉が話せなくても、通訳はほとんど使わず、対応できました。研修の経験が大いに役に立っていると感じました」
と川上氏。 

◆学費や受験料を会社が全額負担する資格取得支援制度
 前述の海外研修の他にも、仕事に関連した資格に対して、取得の支援を行っている。18年は、2級施工管理技師などの資格に、7名の従業員が挑戦。専門学校に入学し、夜間や土曜日に学校へ通いながら資格取得を目指しているが、学費や受験料は全額会社が負担している。
「多額の費用はかかりますが、会社の技術力の向上となり、従業員が成長してくれるのなら必要経費です。19年2月に合格発表があるので、何人が合格しているか楽しみです」
と川上氏。

取組の成果

 同社の勤務は9時~17時。
「創業当時、勤務時間は8時間でしたが、少しずつ働き方を改善して今では7時間です。仕事にメリハリを持って短時間で取り組んでもらっています。近年は、コミュニケーションも深まり、会社内に一体感が生まれてきました。業績も、リーマンショック以後はずっと連続で上がっています」
と川上氏。

◆労働時間・休暇(直近1年間)
・常用雇用者の総実労働時間(1カ月平均)が148.9時間
・常用雇用者の年次有給休暇の平均取得率58.0%、平均取得日数は10.3日

従業員からの評価

「リフレッシュ休暇は3日と3日に分けて、趣味の旅行に使っています。今年は8月と10月に使う予定で、基本的に仕事に余裕がある時期を選んで、リフレッシュしています」
と営業部営業1課の平野さん。

「18年、10日間のロサンゼルス・メキシコの海外研修に参加しました。全国の他企業の人とグループワークを通して学び、視野が広がって大きな刺激になりました。3年前に身体を壊して入退院を繰り返した際には、全部有給休暇として柔軟に対応してもらい、ありがたかったです」
と、営業部物流システム課主任の長岡さん。

「経営トップに直接会って細かな点まで言え、それが改善につながるのはうれしいですね。会議時間の短縮は私の提案です。リフレッシュ休暇と誕生日休暇は100%使っていますが、業務をローテーションして全体の仕事を覚え、休暇の取りやすい環境を整えるように努力しています」
と、総務部の竹田さん。

今後の目標など

 

 「お客さま満足、社会貢献、社員満足の好循環を生み出すという考えのもと、従業員と共に一生懸命取り組み、成果を実感しています。今のところ業績が上がっているのに伴って、できる限り賞与で還元していますが、さらに大企業に負けない待遇を目指しています。今後も、従業員の満足なくして企業の存続はないと考え、“物心一如”の精神で努力を続けたいです。物質的な環境は良くなったと思いますが、人間力を高めていくことがこれからの大きな課題です。お互いに少しずつ勉強することで能力を高め、心を磨いていきたいです」
と川上氏は語った。

取材日 2019年1月

会社概要

蔵田ファイリング株式会社
所在地:広島県安芸郡坂町北新地4-2-61
URL:http://kurata-filing.co.jp/
事業内容:物流搬送機器・保管機器・オフィス機器のプランニング・販売
従業員数:19名(男性17名、女性2名)
(2018年11月現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com