持続的な成長めざし、シフト・7時間勤務制導入
業務効率化や目標の明確化で売上増
株式会社かわかく農機
取り組んだ背景 ~持続的な成長をめざし、変革を決意
農業が主要産業である神石高原町で1982年に創業。農業機械の販売と修理を手掛け、地域に根ざした事業で住民の暮らしを支える。農業と密接に関わる事業柄、1、2月の農閑期に対し、田植え・稲刈りなど米作のピークとなる5〜11月の農繁期では受注状況が全く異なる。家族経営という気安さもあり、農閑期には月の半分しか出勤せず、農繁期には休み無しで毎日10時間勤務するといった一定しない働き方を続けていた。
2015年に代表を引き継いだ代表取締役の川角昌史氏は、
「働き方改革実践企業認定制度を知ったのは17年のこと。商工会の担当者に『良い制度があるので、挑戦してみませんか』と勧められましたが、とても実現できるようには思えず、一度は断りました」と振り返る。
しかし、熟考の末、企業として発展するためには家族ではない若い人材が必要であり、働きやすく魅力的な職場環境を整えることが不可欠だと判断。じっくりと時間をかけ、持続的に成長できる企業へ変わるための挑戦を始めた。
主な取組と工夫点
◆休日をシフト制に変更し、農繁期も休める体制に
農業は季節と天候に左右される。そのため、休日をきちんと定めておらず、雨や雪の日は取引先の農家に合わせて休み、農繁期には休日も出勤し休みなく働くことも多かった。
まず、19年に年間休日表を作り、休日をシフト化。農閑期・農繁期や天候に関わらずシフトで勤務し、休日は出勤しない、という基本から徹底。この年間休日表に月に6日の休暇を組み込み、必ず取得してもらうようにしている。
シフト制により若手従業員がベテラン従業員の業務を担当する場面も増えたが、個々が積極的にレベルアップを図ったことで、徐々に業務の属人化は薄れ、誰であっても対応できる状況になったという。
◆7時間勤務制を導入、1日の労働時間を減らしつつ営業日数をキープ
休日のシフト化によって農繁期に定休日を設けると、売上が落ちるだけでなく、顧客の農家にも迷惑がかかる。そこで、7時間勤務制を導入。一日の労働時間を減らす分、勤務日数を増やし、それをシフト制で回すことで、年末年始以外は休むことなく営業できるようになった。
以前は「お客さんが来ないから今日は早く終わろう」という感覚で店を閉めてしまうこともあったというが、現在は営業時間を午前8時半から午後5時半までに固定。以前は早朝から訪れる顧客もいたが、今では営業時間を理解してくれるようになったという。
勤務時間をきっちりと定めたことで、従業員一人一人が時間内に仕事を終わらせることを常に意識して仕事を進めるようになった。
◆ITを活用して情報共有・業務効率化
シフト制の導入に際し、若手従業員から教えてもらった表計算ソフトを採用し、シフトで会えない場合の従業員間の引き継ぎや進捗管理に活用している。これまで無かった、商品の入荷、整備、販売の日程表も作成し、共同で更新・管理。これに加え、10日、20日、月末には進捗状況の報告会を開いている。顧客や進捗の情報を共有できるようにしたことでシフト制の弊害もなく、休日表に従って安心して休めるようになったという。
また、インターネット販売を始めたこともあり、複数の倉庫に行って目視で行っていた農機の在庫管理も表計算ソフトで行うようにした。これにより、素早く効率的に在庫を確認することができ、業務効率化につながっている。
休日の連絡や顧客からの伝言などには、ビジネスチャットアプリを利用。情報が社内全員の目に留まりやすいため、シフト制がよりスムーズに回るようになった。
◆シンプルな数値目標の設定や報告会で、意識とモチベーションをアップ
リーダー育成を目的に、若手従業員が指揮を執り、毎日の朝礼で売上報告会を実施。修理部門では修理費用をポイント化し、会社全体の目標ポイントを月間と年次で設定。ポイントを随時表計算ソフトで共有しながら、達成を目指すシステムを導入した。具体的で分かりやすい数値目標の設定やこまめな売上報告によって、効率や利益率も想定しながら仕事を進められるようになり、仕事へのモチベーションも高まっている。シフト制での休日導入などと同時に行うことで「休日を確保しながら、売上も伸ばす」という意識に会社全体が変わってきたという。
取組の中で苦労したこと ~長年の習慣を変えることに不安も
川角氏は、
「もともとは家族経営で、農家に合わせて働く長年の慣習が浸透していたこともあり、当初は取組が取引先に受け入れられるか不安でした。しかし、農業人口が減っていく中、今後の事業展開において働き方改革が必要不可欠であることを丁寧に説明することで、理解を得られました。また、若手従業員が新しい制度に柔軟に対応し、導入されたシステムなどに関してベテラン従業員をサポートしてくれたことで、ベテラン従業員の意識も変わっていきました」
と話す。
取組の成果 ~有休取得を進め、売上も増加
休日のシフト化などが奏功し、20年には全員が保持する有休日数の60%以上を取得した。さらに売上も順調に拡大。インターネット販売の好調も相まって、20年度の売上高は13年の法人化時の約4倍に当たる2億4000万円を計上した。川角氏は、
「行動計画やどうすれば目標達成できるかを常に考えてくれるようになったことが、1番の成果。効率よく業務を行えば、短時間でも収益が上がることを実感しています」と話す。
課題や今後の目標 ~売上増へ、業務効率化やリーダー育成
川角氏は、
「今後は従業員を増やし、さらに売上を伸ばしていく仕組をつくりたい。『従業員10人、売上高3億5000万円』が目標です」
と話す。軌道に乗り始めた表計算ソフトによる情報共有・管理体制をさらに確実で効率的なものにするほか、在庫管理に人員を増員し、ECサイトも展開したいとする。新しい人材の確保やそれを指導できるリーダーの育成も急務で、研修にも力を入れる方針という。同氏は、
「長時間働けば利益が伸びるわけではないことを従業員に理解してもらい、個人プレーではなく、会社全体で同じ方向を向いて進む『組織』にすることが、これまでの弊社の働き方改革でした。さらにこれからは、きちんと休日を取ることで心の余裕を担保しながら、やりがいをもって働いてもらうことで利益がさらに上がっていく会社を、従業員とともにつくっていこうと思っています」と将来を見据える。
従業員からの評価
店舗マネージャー
若林 芳樹 氏
以前は情報が口頭で伝えられることが多く、抜け落ちてしまうこともありました。ビジネスチャットアプリや表計算ソフトが導入されたことで、情報共有がスムーズになり、作業効率も飛躍的にアップしました。また、休日や勤務体制など会社としてのルールがはっきりしたことで、精神的にも安心して仕事に取り組めるようになったと思います。
社長は日頃から朝礼などで今後の事業展開について、明確な目標を説明してくれるので、それが若手従業員を含め会社全体に浸透しています。会社というひとつの組織として、みんなが同じ目標や夢に向かっているという実感を持って働けています。
取材日 2021年2月
会社概要
株式会社かわかく農機
所在地:広島県神石郡神石高原町油木甲2598-1
URL:https://www.kawakaku-nouki.jp
業務内容:農業機械の販売、修理
従業員数:8人(男性7人、女性1人)
(2021年2月時点)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)