ロールモデルの存在が社内に活気を与え、
ベテランと若手の相乗効果も

株式会社デコラム(2018年「広島デコラ株式会社」から社名変更)

1 採用活動の工夫、戦略的な人員配置で女性従業員比率54%、
製作部門の男女比1:2に

 広島デコラ(株)(以下、広島デコラ)は、街で見かけるサインや看板、ラッピング電車等の「資材販売」と、これらに手を加え形にしていく「加工販売」の大きく2つの事業を展開している企業である。一般的には、「資材販売」か「加工販売」のどちらかに軸足を置いたビジネスを行っている企業が多いが、同社はどちらも行っている珍しい企業だ。広島デコラの女性管理職である製作部の山口部長は「当社の女性従業員比率は同業や取引先と比較して高いと思います。競合他社の営業担当者やお客様となる取引先では、圧倒的に相手が男性のことが多いです」と話す。同社の女性従業員比率は54.5%と女性が過半数を超えており、製造業全体の女性従業員比率30%に比べて24.5ポイントも高い(※)。

 さらに職種別にみると製造、加工を担当する製作部門においての男女比は1:2と、女性が男性の倍となっている(図1)。製作部門に女性が多いのは、取引先からも「珍しい」と言われることがあるそうで、広島デコラの特徴の1つとなっている。同社の女性従業員比率が高い理由としては以下の2つがある。

① 就職市場において、従業員目線、現場目線の採用活動を取り入れた結果、募集説明会に集まる人数がこの2年間で6倍に増えたこと。
② 会社が戦略的に人員配置を行った結果、どの部門においても女性が活躍していること。同社には製作(本社、高陽)、営業(本社、大阪)、総務(本社)と柱となる3つの部門があるが、どの部門にも主任以上の女性従業員が当たり前のように存在する。同社の「製作部門」は、印刷、フィルムの加工、文字製作など、細かい作業で手先の器用さが求められる場面が多く、「体力」だけではなく「技術力」が重視される工程がほとんどで、中でも、気配りや丁寧さが製品に表れ、女性ならではの対応が力を発揮している。

※比較対象の業種の選定が困難であるため、製造業全体と比較している。

図1 男女の職種別の配置状況

2 女性担当者と本業の技術を生かした会社説明で、学生の応募者大幅アップ

 広島デコラは、県内学校や企業の合同説明会などで、毎年数名の新卒採用を行っているが、数年前から採用責任者の男性役員に代わって女性管理職である山口部長が採用を担当している。説明会においても、複数の女性従業員で説明を行うスタイルに転換したところ、「女性が窓口」ということで訪問しやすい雰囲気となったせいか、途端にブースへ訪問する学生数が増えた。さらに2年前からは、自社で加工したテーブルクロスを飾ったり、パワーポイントを使って会社説明を行うなど、本業の「広告技術」を駆使して会社の魅力を知ってもらう工夫を行っている。

 その結果、従来は1日に3人程度であった学生の訪問数は6倍以上となり、1日20人程度訪問してくれるようになった。同社従業員の出身校で開催される説明会には100人もの学生が集まるなど、自分たちの先輩が活躍している会社ということで人気が高まり、後進が集まってくる流れもできているようだ。応募者の増加は優秀な人材の確保につながり、就職市場での高評価は確実に会社の成長につながっているという。

3 女性営業職育成の失敗を糧に「ロールモデル」の育成や配置戦略を実施

 広島デコラの特徴としてさらに挙げられるのは、「女性営業」の活躍だ。現在、営業担当者10名のうち3名が女性で、冒頭の山口部長の発言にもあるように男性のお客様・ビジネスパートナーが多い中、3名とも意欲的に活動し、営業成績も順調だという。この女性営業活躍の背景には、4年前に女性営業が相次いで退職した苦い経験があるそうだ。5年前にも同じく3名の女性営業がいたが、職人気質のお客様への対応や、自分で車を運転して営業活動するというハードな業務に加え、周りもフォローをする体制が整っておらず2名が退職してしまった。そういった失敗から、ロールモデルの必要性に気がついたという。

 経営方針としても営業を強化するため、平成28年度「女性営業の育成」に再びチャレンジ。営業に唯一残った女性営業が経験を積んで成長し、“上司”として人材育成を任せられるようになったことも大きかった。入社2年目と4年目の女性従業員を営業部門に異動させ、 “上司”のもとで業務にあたらせた。後輩はロールモデルがいることでやるべきことが明確になり、上司はガッツのある後輩ががんばっている姿を見ることで「手を差し伸べよう」という気持ちになるなど、お互い良い関係が築けているという。

 また、入社後全員が経験する「製作業務」で身につけた知識を、実際の営業の場で生かせる(商品について詳細に話ができる等)こともやりがいにつながっているそうだ。そういった意欲的な活動と、競合他社に女性営業担当者が少なく、取引先に顔を覚えてもらいやすいというメリットもあるせいか、順調に成果が上がっている。戦略的な人員配置は、会社にとっても従業員にとっても良い結果につながっており、今後も営業を希望する従業員を積極的に配置し、後進を育てていきたい考えだ。

4  管理職として大切にしていることは「自分の考えを共有する」こと

 30名規模の会社のため、現在の管理職数は3名(部長1名、課長2名)。そのトップを務める女性管理職である製作部部長の山口さんに話を聞いた。山口さんは採用や人材育成なども担当している会社のキーパーソンである。キャリアヒストリーを見ると順風満帆に見えるが、1度だけ会社を辞めたいと思った時期があるという。それは入社3年目に「主任」となった頃。当時、会社の方針が「年功序列」から「能力主義」に転換し、山口さんの能力、成果が認められ「チーフ」を飛び越えて「主任」となった。

 その結果、今まで自分の先輩であった目上の方々に対し「指示を出す」立場となり、「目上の方に指示するなんて…」と心苦しさを感じた。また、仕事に対する情熱も、自分と周りとの間に温度差があるように感じ、苦しい日々の中、「もう辞めたい!」と思うことも少なくなかった。そんな時、高陽事業所で新規事業を本格稼働させるという話があり、山口さんが悩んでいたことを知った上司からのアドバイスもあって、自ら志願し、異動することとなった。今までとはまったく異なる部署での新たなチャレンジは仕事への集中力を高め、また業務は「お客様のために」あることに気づき、そこからは自分の考えを部署内で伝えることの大切さを理解した。その後本社に戻ってからも、営業企画という販売強化ツールやDMを作成する新しい部署に異動し、多様な業務を経験できたことが現在の山口さんの財産となっている。

 「女性管理職第1号」となった山口さんだが、社内にロールモデルがいなかったことに対する不安はなかったという。山口さんが係長になるとき、当時の役員から「君の思う通りにやっていいよ」と言われたことが大きいと振り返る。
「やりがいのある仕事を任されることで自分に責任感が湧く→その仕事ができると自信がつく→できた仕事は会社から評価される→評価されるとさらにがんばれる、といった好循環が、自ずと“会社のために”という組織貢献への思いにつながっていると思います」
そんな山口さんが現在力を入れているのが、後進の育成だ。新入社員は入社後、必ず製作部業務に携わることから製作部の山口さんのもとに必ず就くことになる。

 「人材育成」は毎年のことではあるが、指導する度に人に教えるということの難しさ、大切さを実感するという。特に現在大事にしているのは、自分ではなく「部下に育成業務を任せる」こと。入社2、3年目の従業員に新入社員の指導役を任せることで、先輩従業員に責任感が生まれ、新入社員が仕事を覚えていくことでお互いに自信をつけることができるそうだ。また先輩が新入社員の「相談役」になることで、会社に居場所を作りやすくなり、教育した後輩の退職を防ぐことにもつながる。その背景には、自分自身も入社時にいた女性の先輩に相談できたことで困難を乗り切れた、会社を辞めずに続けてこられた、という経験が大きい。

 また、管理職育成のために必要なこととして山口さんは「(管理職としての)自分の考えを共有すること」だと語る。その一環で、山口さんは管理職候補の従業員を後輩指導の場に立ち会わせるそうだ。後輩を叱る場面をその管理職候補生に見てもらうことで、自分の思いや後輩指導の仕方を学ばせるのだという。
「管理職は仕事ができるだけではなく、様々な力が必要です。例えば、判断力、決断力、先読みできる力、周りを見る力、伝える力、聞く力。そして思いやりの心、感謝の心も必要です。この中で私が一番大切にしていることは『思いやりの心』です。仕事には必ず相手があり、相手の立場を考えなければ仕事は自分の思い通りにいかないということを後輩にも仕事を通して学んでいってもらいたい」と語る。
決して過保護にはしないけれどいつでも頼りになる人として、後進が安心して働ける環境を整える山口さんの存在は、会社にとっても後進にとってもかけがえのない存在となっている。

◆山口さんのキャリアヒストリー
2000年 広島デコラ入社。入社半年前から学校へ通いながらアルバイトとして働き、入社後は本社製作部へ配属。フィルムを用いた加工・貼付け業務を担当する。

2003年に同部署で主任となる。
(同社では通常、「チーフ」を経て「主任」となるが飛び越えての昇進)

2004年 高陽事業所製作部に異動。
後に会社の主力サービスとなる「インクジェット」を担当。

2006年 女性管理職第一号として係長に昇格。

2007年 本社異動となり、製作部課長に昇格。

2010年、本社製作部兼営業企画部で部長に昇格。
2013年からは組織変更により、「製作部」部長となり、現在に至る。

取材担当者からの一言

 広島デコラは女性従業員や管理職の割合が高く、女性活躍推進のお手本であると言える。「優秀な人材を集めた結果、自然と女性が増えた感じです。会社の力となってくれて助かっています」という答えに、女性活躍が進んだ理由が凝縮されていると思う。

 また中でも、女性リーダーの存在と人材育成が特徴的だ。30名規模の組織においては経営者が隅々まで主導することが多いが、経営者だけでは、従業員との間に壁があったり、なかなか自分の思いが伝わらない場合もある。経営者と従業員の橋渡しとなる女性リーダー(部長)の存在により、社内のコミュニケーションが円滑化されているのではないかと感じた。
 また、大企業のように整備された人材育成プログラムはないものの、「新卒採用」を継続して行い、後輩に仕事を教えることで、若手を育成する場が設けられ、次なるリーダー育成にもつながっている。特に、新入社員に全部署を経験させる、主要部門である製造で経験を積むなど、小規模企業が導入しやすい取組が上手く機能していると言える。

●取材日 2017年11月
●取材ご対応者
製作部部長 山口 美樹 氏

会社概要

株式会社デコラム
所在地:広島市西区南観音6-11-9
URL:http://www.decoram.co.jp/
業務内容:広島デコラ株式会社は1981年に設立され、30年以上に渡りスリーエムジャパンの正規代理店として、外装ビジュアルに関わる様々なサービスを展開。建物や店舗のサイン・看板等の製作、マーキングフィルムと呼ばれる特殊なフィルムを用いての自動車や電車の車体、店舗のウィンドウ、壁や路面のラッピング製作、マーキング資材の販売等を行う。「街に楽しさ、活力、美しさを創り出し、地域社会に貢献する」ことを理念に掲げ、生活の中の「便利」や「ワクワク」を彩る役割を担っている。
※平成30年5月に「広島デコラ株式会社」から「株式会社デコラム」に社名変更
従業員数:33名
女性従業員比率:54.5%
女性管理職比率:33.3%
(2017年11月末現在)

情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com