陸の玄関口一新 広島駅周辺その②【スぺシャルインタビュー:広島電鉄 椋田昌夫代表取締役社長】
広島経済レポート【2023年新春号】|広島駅周辺再開発
外出創出するまちづくり公共交通と一体的に構想
路面電車の駅前大橋ルート整備をはじめ、広島市が路線バスの「上下分離方式」を検討するなど、まちづくりと密接な関わりを持つ交通体系が刷新される。椋田社長はハードの整備に加え、広島を巡りたくなる仕掛けを狙う。生え抜き社長として、強い思いで地元公共交通の新たな形づくりに取り組む。
市、JR西日本と「広島駅南口広場の再整備等」事業に取り組んでいる。コロナ禍や物価高など不測の事態に陥ったが、2020年12月に着手した工事は計画通りに進む。25年春の完成と同時期に駅前大橋ルートの供用を始める予定だ。車両が駅ビルの2階広場に乗り入れ、JRからの乗り換え距離と時間が短縮できる。経路変更や巡回ルートの整備によって、八丁堀・紙屋町方面への乗車時間短縮や回遊性の向上を見込む。
公共交通は通勤、通学など日常的な移動に不可欠だと考える甘えがあり、かつては乗客を増やす努力が不十分だった。しかし、少子高齢化と人口減少が進む中で、手をこまねいてはいけない。公共交通がさらに必要とされるには何をすればよいか。結果、移動したいと思うまちをつくると決意した。つまり「まちづくり」に関わりながら、移動の目的を創出する。
地元の人が求めるまちを形づくるためには、地元企業や行政の協力が必要だ。21年4月に社内に窓口となる地域共創事業部を設置し、同月に地元企業や行政を巻き込んで広島都心会議を設立した。また、宮島口の再整備や「西風新都グリーンフォートそらの」など再開発にも取り組んできた。地域のイベントにも積極的に参画し、出掛けたくなる仕掛けづくりに挑戦。従業員にもどんどん参加させ、付き合いがなかった会社とも連携する。これまでにない新しい目的をつくっていきたい。
目的創出に加え、実際に乗ってもらうためには利便性と分かりやすさの向上が重要。22年に市内路線バスの均一運賃エリアを広げ、電車のICカード全扉乗降サービスは連接車両に拡大。24年10月の運用に向けて、新乗車券システムを開発している。時間帯や曜日別の変動運賃制度をはじめ、地元スポーツチームの試合観戦時の運賃割引なども検討する。 路面電車やバス以外にも手を打ち、公共交通を充実させたい。20年2月に「ひろでんモビリティサービス」を設立し、五日市のAIオンデマンドバスや市内ハイヤーの運行を始めた。例えばハイヤーで空港からの観光客を目的地で降ろした後に、宿泊施設まで荷物を運ぶことで、手ぶらで街歩きを楽しんでもらう案がある。まちづくりと利便性という観点を両輪に据えつつ、観光との相性など、それぞれの特徴を生かしていく。
【プロフィール】広島電鉄椋田 昌夫 代表取締役社長
1946年11月24日生まれ、広島県出身。広島大学卒。69年入社。2013年から現職。県バス協会会長を兼務。
広島経済レポート:2023年新春号