新駅ビルは変革のチャンス 〝環瀬戸内の首都〟へ前進
広島都心会議 / 椋田 昌夫 会長(広島電鉄会長)

□■━━ 広島経済レポート|2025年新春インタビュー ━━■□

―広島駅の新ビルに対する期待は。

交通結節点という役割だけでなく、そこに行くことが目的になり、新たなにぎわいが生まれるだろう。駅南口周辺の各施設と歩行者通路でつながり、回遊性も高まる。まちづくり団体や企業、行政が連携しながら、一体となって周辺の活性化が加速するよう期待している。
情報発信拠点としての役割も大きくなると思う。広島では原爆ドームや宮島に続く観光地への誘客が長年の課題だ。各地域にも多くの魅力があるが、観光客に伝わっていない。そこで、新しい広島駅を情報の発信源にしながら、広島、そして瀬戸内の各エリアへ誘客できるようなハブ機能も持たせられれば、全体の価値向上につながる。さまざまなリアルタイムの情報を一元化し、ジャンルごとに閲覧できる仕組みなどがあればよいのではないか。
例えば広島都心会議では、メンバー企業のジョルテさんが県観光連盟とも連携しながら「イベンティア」というリアルタイムなイベント情報を取りまとめたサイトを開設。各場所で次にどこに行くべきかを示唆することで、周遊回遊が促される。

―駅を起点とした交通網の将来像は。

駅周辺と紙屋町・八丁堀の両エリアが相乗的に価値を高めていく必要があり、それには2拠点を移動しやすい仕組みが重要だ。今回の再開発では、広電電車の駅ビル2階への乗り入れや駅前大橋ルート新設によって、市中心部へのアクセス時間が短縮される。他にも、川辺のライティング(照明)や休める空間など、歩きやすくて周遊回遊を促すような整備が求められる。
さらに広域周遊を促すために、広島空港はもちろん、バスやデマンド交通、グリーンスローモビリティなどの多彩なモビリティの垣根を超えて、シームレスに移動しやすい体制づくりを考えたい。 駅ビル乗り入れについて実は、検討段階の10数年前に高架方式と地下方式で賛否があった。いま高架が出来上がる光景を見ると個人的に感慨深い。唯一の景色が広がり、やってよかった。

―広島都心会議が目指す「環瀬戸内の文化経済首都」の狙いは。

近年は都心部でゲートパークやエディオンピースウイング広島などが開業したほか、新年も広島城三の丸、県庁前などの再開発・整備が完了予定で、他にも本通再開発ビルや商議所移転先のビルなど多くのプロジェクトが動き出した。今が変革の最大のチャンスだ。
こうしたタイミングだからこそ、「広島都心会議ミライビジョン2030」の中で「環瀬戸内の文化経済首都」という目標を掲げた。広島のポテンシャルを活用し、民間視点での「広島の都心部をこうしたい」という考えを取りまとめた「目指すべき姿」と、それを実現するための「具体的な施策」を模索するとともに、それを多くの人と共有することで、広島・瀬戸内の価値を上げていきたい。

―転出超過問題をどう考えるか。

広島は転出超過が3年連続ワーストとなってしまい、特に若い人をどう引き付けるかが課題だ。広島は山と海が近く、豊かな食文化もあり、芸術、スポーツなどを含め多彩な文化が集積している。さらには世界有数の技術を持つ製造業をはじめ、幅広い業種の有力企業を抱える。若い人をはじめとした多くの方が、暮らしたい、働きたいと思えるような楽しく魅力的な都心をつくることが必要だ。そのためには若い世代の方とも一緒にまちの将来像を考え、実現に向けて取り組んでいきたい。
広島都心会議では、紙屋町地下街のにぎわい創出に向けたビールとスポーツのイベントを開催し、同じく地下街にまちづくり拠点「ショールーム」を整備した。イベント「CITY SCAPE」では四つのプロジェクトを実施し、その一つとして、広島の魅力である川辺のライティング社会実験は、歩行者から好評だった。また学生や企業の若手社員がまちづくりについて考える機会をつくるなど、いろいろなコミュニティーで広島の魅力や課題を共有しながら、都心の価値を上げるためにできることをスモールスタートでやってきた。
若手の意見を反映させ、私はあくまで補助エンジンの役割に徹するよう意識している。初めの一歩を積み上げていき、若い人が一緒にまちを変えていこうと考える機運を醸成していきたい。

広島経済レポート|2025年新春号掲載