【前編】新事業を実現する「組織づくり」とは
テラスHD、オオアサ電子、イベントスの3社長が対談
【主催】ひろしま環境ビジネス推進協議会|ビジネスセミナー
環境・エネルギー分野の新事業創出に向け、毎月セミナーを開催している「ひろしま環境ビジネス推進協議会」(事務局・広島県)は7月25日、新事業に積極的に取り組む県内3社の経営者を招き、「組織づくりの本質」と題したセミナーを広島市内で開いた。テラスホールディングス(西区己斐本町)の桑原明夫社長、オオアサ電子(北広島町)の長田克司社長、EVENTOS(イベントス・中区舟入中町)の川中英章社長が対談。新事業を生み出すための組織づくりについて、それぞれの考え方や具体的な仕組みを話し合った。(進行役はeiiconの村田宗一郎執行役員)
新事業を生む組織とは
社員が自ら手を上げて納得感と責任感を持つ
失敗を重ねながら成功に向かう原動力は「仲間」だ
―新事業にどのような陣容で取り組んでいますか。
テラスホールディングス・桑原社長(以下・桑原) 解体業の桑原組を中核とする持ち株会社テラスホールディングス(HD)を昨年設立した。HDをつくった狙いは、新規事業の創出と経営人材の育成だ。HDのグループ社員数は70人ほどで、そのうち新規事業に携わる社員が7~8人。アルバイトを含めると50人以上になる。以前は目の前の業務を優先せざるを得ず新事業に手がつかない状況だったが、現在は飲食業に参入するなど事業の多角化を進めている。
オオアサ電子・長田社長(以下・長田)
液晶表示装置の製造を中心に、新たに自社ブランドの音響機器やセラミック事業などに挑戦しています。社員数は120人くらい。今年、各部署のミッションを考え直し、呼び名も変えた。営業部は「未来創生部」、製造部は「ものづくり本部」といった感じだ。呼び名を変えることで仕事への認識が改まり、モチベーションは上がっていると感じている。
チームで考えることをとにかく実践させている。「三人寄れば文殊の知恵」で、皆でやれば知恵と工夫と協力・協調が生まれる。立地上、会社のある北広島町の人を中心に事業を進めなければならない環境にある。プロ人材も採用してきたが、レベルが高過ぎて田舎の企業風土になじめず、離職を招いたことも。特効薬はない。とにかくボトムアップ体制でチームとして新事業に挑んでいる。
イベントス・川中社長(以下、川中)
ケータリングサービスや飲食店を運営しており、近年は有福温泉(島根県江津市)の再生など地域活性化の事業に領域を広げている。社員数は51人。当社には会社の将来像を描いたイラスト「未来の組織図」というのがあり、新しい事業の方向性を大まかに示している。基本的には立候補制で新事業に挑戦してもらい、現在は全スタッフの5分の4くらいが新事業に携わる。ほぼ新卒で入社した社員たちなので、良くも悪くも業界の常識がない。だから自ら手を挙げて挑戦する風土が出来上がっている。
桑原
既存でそういう社員がいるかというと正直難しい。何をするのかという目的を持って、そういうゼロイチ人材を求める活動が欠かせない。今いる若手に会社が迎合するのではなく、いなければ来てもらうしかないし、そういう人が集まる会社にしていくことが大事だと思う。
ちなみに私が就任したとき、“やったことがないことには手を出さない”という社員が大半だった。そこにメスを入れると、代表取締役の立場だが一番若かったせいか、幹部から徹底的にいじめられた。結果、当時40人ほどだった社員は3年後に半数ほどに。その一方で、関係会社からの転籍を含め25人ほどを新規採用した。大量退職されたときは会社が終わるかもしれないとも頭によぎったが、このままで良いと思えなかったので断行した。これがあったからこそ今の会社がある。もっとうまいやり方があったかもしれないが、当時はあれが私にできる全てだった。
長田
当社の社員は皆、真面目。全員が優秀でなくても、お互いの長所を出して短所をカバーし合えれば、開発チームはつくれると考えている。各分野の技術者や営業も含めて多くが参画し、一つの目標に向かってものづくりを進めていくと、モチベーションはだんだん上がる。実際はそんな理想的な社員ばかりではないので、そういった風土づくりは、やはりトップ自らがやらないといけない。1990年代半ば以降に生まれたZ世代には私の言葉が通じなくて驚くこともあるが、若い上司が伝えると通じている。頭ごなしでは駄目だと痛感しており、いつも迷いながら経営している感じだ。
川中
当社の査定面談は加点方式を採用。若手が多く、ほとんどが年下の上司みたいな状態で、減点評価がしにくいためだ。若手でも取組みやすい仕組みをつくっておかないと、誰も新事業に立候補できなくなる。当社には「成長拒否は社員による会社の私物化」という言葉がある。成長しない社員の存在は結果、自己の成長を願い懸命に努力している人の人生を邪魔することになるので入社時点でしっかりと伝えて、厳しく律している。
桑原
年次は関係ない。やりたいことに自ら手を挙げて納得感と責任感を持つことが大事だ。3年前、入社2カ月の女性社員2人から、社内報が面白くないと意見が上がった。「ではどうするのか」の提案を受け、即採用し、翌月から任せた。あれから3年ぐらい続いており好評だ。言うだけではなく、実行まで貫通させてみることが大切だろう。
新事業をやると、既存事業に当然負荷がかかる。そのバランスを取るために、一日のうち1~2割を自分の成長につなげる時間に使ってもいいのではと考え、制度化を進めている。各々の成長につながることであれば、もっと柔軟性のある組織づくりもできると考えている。
長田
時代は著しく変遷している。それに付いていくために「心一つで景色を変えよう」という目標を掲げている。いくら将来の数字を見せても、社長が言い続けても、社員が同じ景色を見ないと一枚岩になれない。そこで重視しているのは「部門長会議」だ。毎朝30分、各部門の部門長や開発室長などが参加し、共通認識を持つ目的で行っている。一日経てば、変化は目まぐるしい。自分の部署だけでなく会社全体で一つの結果を出し、社員一同で景色を変えていこうと伝えている。リーマンショック後から続け、良い変化が生まれつつある。
川中
お客さまから「ありがとう」の言葉をもらうと、社員は自分の存在価値を感じる。そういうことが直接伝わる仕組みづくりに注力している。これは営業支援など間接部門の人たちも同様だ。また「社員は自分の幸せを考えて会社にいるのであって、会社のためにいるわけではない」という事実を社長が自覚することも重要だ。パートナー(仲間)ではないがパートナーに最も近い存在である社員が、本当のパートナーになるために、経営者がどう努力していくのかを問われている。また、わずか8分ほどだが朝礼を実施。顔を合わせて各自が発表を行い、それをみんなで承認する。これを続けることで風土は変わった。
また女性社員が7割を占め、平均年齢が32歳と若いので、“育休・産休地獄”になる(笑)。それを嫌な顔をせずに「楽しみだね。帰ってくるのを待っているよ」と本心から言えること。口に出さなくても迷惑千万みたいな顔になっていたら、それは必ず本人に伝わってしまう。私も最初からできていたわけではない。ベテラン技術者に辞められることを恐れて、若手からの改善提案を受け入れず、能力のある人を辞めさせてしまったこともある。それでも何人かが残ってくれて、新卒社員が4割を超えたぐらいから、逆に変われない頑固なベテランをびびらせるようなことが時々起こるような風土に生まれ変わった。この間、心の中で「ゆっくりでもいいから必ず前に進めるんだ」と決意し、ベテランたちが辞めていくのをぐっと我慢した。
経営者の判断基準が損得なのか正しさなのかで、社員の会社を見る目は大きく異なる。調子のいいことを言っても、いつかは見限られる。40代初め頃、幸せになりたいと創業したのに、いつまでたっても幸せになっている実感がなく、なんでかなと振り返ったとき、いつも損得勘定だったことが見破られていたんだと気付いた。
◆ ひろしま環境ビジネス協議会「SCRUM HIROSHIMA」について
ひろしま環境ビジネス協議会が運営する「SCRUM HIROSHIMA」は、広島県からセクターを超えた多様なステークホルダーがスクラムを組みながら、世界の環境課題の解決に貢献するビジネスを広島県から持続的に創出していくことを目的とするコミュニティです。
毎月、さまざまな企業、団体から講師をお招きし、環境経営セミナーを開催しております。詳しくはホームページをご覧ください。
https://hiroshima-greenocean.jp/scrum5/index.html