ボール、船舶軸受で欧州開拓へ
アパレルブランドの成長も期待

インタビュー2021 ミカサ 佐伯 祐二 社長

-主力のボール事業で海外市場の開拓を強化する方針です。

 2020年はコロナ禍の影響を受けたが、それまでボール事業は海外が成長を牽引し、ここ10年くらいは伸び続けていた。売り上げは国内1に対し、海外2と大きな比率を占める。タイとカンボジアに製造拠点、アメリカに販社を置く。加えて主要各国に1社ずつ代理店がある。海外売り上げはヨーロッパが最も多く、次は南米。やはりバレーが強い国ほどマーケットは大きい。ヨーロッパでさらなる市場開拓を目指し、調査を続けている。重要エリアであり、今後も拡販を続けていく。
 アジアも人口増加と経済成長が重なり、シンガポールやインドネシア、ベトナムなどで売り上げが伸長。アジアはタイ工場に営業機能を設け、インドシナ半島を手始めに、アジア地域をタイからカバーすることを検討している。生産性向上に向け、工場の省人化、機械化の投資も継続している。

-東京五輪が延期された影響は。

 バレーボール、ビーチバレー、水球の3競技にボールの提供が決まっている。バレーボールは今までの統計を見ると、五輪開催年の前年に売り上げが伸びる傾向にある。おそらく練習強化など大会に向けた準備でボールを新調しているようだ。実際、新型ボール発売の好影響もあり、19年は売り上げが好調だった。20年はイベントなどさまざまなプロモーション活動を予定していたがすべて棚上げになった。今年は大会が開催されるのか分からないが、仕切り直したい。

-第二の柱の船舶用軸受など工業製品事業が堅調です。

 エンジンの動力をスクリューに伝える軸を支えている軸受という部品を造っている。一般的な軸受は金属でできており、潤滑剤に油を使うが、ゴムや樹脂で造る当社製品は水を潤滑剤として使うため油漏れによる海洋汚染がない。高付加価値で価格は高めだが、摩擦が少ないため運用コストが減り、さらに環境負荷が少ない点を船主にアピールできる。耐久性も高い。
 工業製品の売り上げはほぼ国内が占め、海外は5%ほどしかない。依頼があれば対応していた程度だった。しかし世界的な環境意識の高まりで需要が拡大すると見込む。特に豪華客船など大型船の受注を狙う。南極観測船しらせに搭載された世界最大級の軸受は当社製で、各国の砕氷船の需要も大きい。まだ海外に類似品はなく優位性が高いが、世界の競合先が当社の技術をまねしてきている。海外での当社の認知度は低く、早くスタンダードに育てなければならない。船舶の企画設計はヨーロッパが主体で、ボールと同じくヨーロッパが主戦場になる。海外営業の社員を増強し、5年以内に海外の売り上げ比率を10%まで引き上げる計画だ。

-20年にアパレル中心のブランド「ミカサスター」を立ち上げました。

 ミカサという知名度は高いが、当社の製品を実際に持っている家庭は少ない。五輪の試合球としても使われるこの知名度を生かさないのはもったいないと考えた。
 18年からライセンス事業に取り組んでおり、現在十数社と提携。ボールの合成皮革や当社のロゴなどが使われたバッグや雑貨、アパレルなどが商品化されている。ミカサスターはライセンス事業の一環で、主な製造と販売は外部に委託。部活動などでボールになじみのある中高生をターゲットに新商品を投入していく。同事業の累計売上高は数億円で、じわじわと広がっている。一気に拡大するものではなく、長く育てる意識で取り組む。国内は人口減少に伴い、数十年にわたりボールの市場は少しずつ縮小。健康用品も手掛けており、新たな第三の柱を育てたい。