ITや機械による自動化で業務効率化
従業員の主体性を育み、有休取得にも成果
日プレ株式会社
取り組んだ背景
~連携の停滞や意欲低下で離職の悪循環に
創業80年を超える自動車の大型プレス金型製造、機械加工メーカー。自動車メーカーの新車開発サイクルに合わせて受注が変化するため、繁忙期と閑散期で業務量が大きく変化する。それに伴い時期によって出勤日数・労働時間に波があり、働き方の不安定さにつながり離職者を生んでいた。離職者が出ると残った従業員に仕事のしわ寄せが生まれる上に、不慣れな作業が増えることで連携作業や情報共有が滞り、現場のモチベーションが低下して離職につながるという悪循環に陥っていた。代表取締役の福田浩明氏は、
「以前は毎年1~4人を定期採用していましたが、近年は求人を出しても応募も無い状況でした。限られた人員の中で生産性向上と会社の成長を目指すためには、従業員一人一人の成長と能力発揮を促す対策が不可欠でした」と話す。
主な取組と工夫点
◆多能工化で有給休暇の取得を促進
人数が少ない職場で従業員が確実に有給休暇を取得し、急な休みにも対応できるようにするために、まず取り組んだのが多能工化だ。
「〝1人が3つの仕事、3台の機械を使えるようになろう〟を目標に2年前から取り組んでいます」と福田社長。
現場では新人が簡単な作業からステップアップしていけるように、担当する作業・機械のローテーションを決めた。現在は誰かが急きょ休んでも、他の人がある程度その工程を担当できる状況ができつつあるという。
また、同時に繁忙期と閑散期の仕事量の差を埋めるために、数年前から自動車部品以外の機械加工業務の営業活動を強化している。以前は自動車部品の仕事の1割程度しかなかったが、今では5割近くに上昇し、閑散期の稼働が増え、業務の平準化が進んでいる。
◆IT活用で業務の見える化と効率化
先代社長の時代からIT活用に取り組み、自社開発の生産管理ソフトやCADを使う。生産管理ソフトで納期に合わせた工程の調整・管理ができるため、顧客の信頼を得ることにつながっているという。さらに、仕事時間をデータで残して見える化し、作業に時間がかかっている場合の問題解決や負荷調整、従業員の技術熟練などの意識づけにも役立てている。
社内連絡には2017年から対話アプリLINEのビジネス版「LINE WORKS」を導入した。
「若い人はLINEに親しんでいるので『〇〇を受注』、『△△で不具合』などの業務連絡に使うことでコミュニケーションの活性化も狙いました」
と福田社長。
小型NCマシニングセンターオペレーター業務を行うNCMチームの福田昌彰さんは、
「以前は分からないことがあると他部署まで聞きに行っていたのが、手元のスマホで聞けて無駄がないのもいいと思います」と話す。残業申請書など各種申請書も従業員が同アプリ内を利用して提出できるようにするなど、事務作業の効率化も進める。
◆機械による自動化、遠隔監視で人員の省力化
生産管理システムと、機械ごとに取り付けたネットワークカメラの導入により、従業員が常時機械に張り付かなくても工程や作業の進み具合を確認でき、その間別の作業を行えるようにした。また、営業先で機械の空き状況を見ることができ、スムーズな商談に役立っている。さらに、機械加工の導入で自動化を進めながら、治具の設計開発などで作業工程を見直し、生産性向上に取り組んでいる。
◆セミナー参加や他社見学で自発的な人材を育成
現場の仕事に加え、能力向上や成長に資する時間も重要だと考えており、参加したいセミナーや展示会、取引先工場の見学などを従業員が企画して参加している。福田社長は、
「この取組をはじめてから、機械の担当者が『データ作成をしたい』、CAD担当者が『実際に機械を扱いたい』など、若手社員が次々と希望を出してくるようになりました」と成果を実感する。
講習で身に着けたスキルは、各従業員が次に担当する仕事を決める上での判断材料になるという。さらに従業員自らもスキルアップを目指せるように、どの現場を経験したか、どの技術をセミナーなどで取得したかを見える化する「スキルマップ」の準備も進めている。
◆時短の前後時間を有給にする独自制度
20~30代の若手の男性従業員が多く、19年末に初めて育児休業を取得したいという相談を従業員から受けた。
「育休を取るとその間無給になり、生活が不安定になるから取得に迷うという話でした」と総務部長の黒田雄三氏。
そこで、通常午前8時~午後5時の勤務時間を午前9時~午後4時に短縮するが、給料を削減しない独自の育児介護休業制度を創設した。
黒田氏は、「若い世代の定着率を上げる効果も狙いました」と話す。
取組の中で苦労したこと
~ベテラン退職で現場の士気が低下
高い技術と経験を求められる金型製作の仕事は、特定の人材だけが担当できる状態に陥りやすいという。同社は技術を持つ従業員を多く抱えていたが、働き方改革の取組を進める過程で、多能工化のために仕事を標準化するやり方が受け入れられず、40~50代のベテラン勢の退職を招いたという。この状況が、残った従業員の負担増を招き、職場や仕事に対する不安を増加させた。多能工化の取組も、ベテランがいないこともあり、まだ実現の途上にある。福田社長は、
「これから先は人手不足が免れない時代。誰もがどの仕事も担当できる仕組みと各人のスキルアップで生産性向上を目指すしかない」と、引き続き取組を続けている。
取組の成果
~従業員の主体性が生まれ、有休取得にも成果
年次有給休暇の取得率は80.9%。以前から閑散期に有休を取得して平均60%程度を実現していたが、多能工化の取組のおかげで閑散期以外でも取りやすくなった。また、人材育成が奏功し、20~30代の従業員の定着率改善、スキルアップなどへのモチベーションが向上するという好循環が生まれた。最近では、事務所の床タイル張り替えを社内で行ったのをきっかけに、若手従業員が「ここまできれいにしたから自分たちで毎日掃除をしよう」と声が挙がったという。取引先の工場見学などで視野を広げたことが、工場まで含めた従業員の自発的な5S活動につながった。
課題や今後の目標
~人手不足でも従業員と会社を成長させる
一部で工場内設備や生産管理システムの老朽化が進んでおり、継続した設備投資の必要性を感じている。生産管理システムは社内で独自に構築したため、もし故障すると生産工程が停滞してしまう恐れがある。福田社長は、
「今後も時代の変化を捉えながらITや事務作業のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などを積極的に活用し、業務の無駄の排除、簡素化、プロセスの改善など効率化を進めたい。人手不足の中でも、生産性を高め、会社と従業員が成長し続けることが目標です」と、意気込む。
従業員からの評価
NCMチーム 福田 昌彰 氏
年末に第2子が誕生して、2日間の育児休業を申請しました。年明けには、上の子を保育園に送り迎えする手が足りなくなるので、引き続き休暇を申し出ました。育休中は無給と聞いて生活が不安定になると相談したところ、短時間勤務でかつ給料は削減しない形での育児介護休業制度を利用できるようになりました。朝夕の送り迎えに間に合うし、早く帰って子どもを風呂に入れるなど、家族との触れ合いの時間が増えてありがたいです。妻の負担も少し減らすことができているかなと思います。社内で、しかも男性で育休を取るのは初ですが、こういう場合に備えて多能工化を進めているし、同僚も「自分の番のときは頼む」と言って快くフォローしてくれています。
取材日 2020年2月
会社概要
日プレ株式会社
所在地:福山市箕沖町86
URL:http://www.n-press.co.jp/
事業内容:自動車部品や機械のプレス金型設計・製作、金型部品の単品加工ほか
従業員数:33人(男性31人、女性2人)
(2019年12月時点)
情報提供:広島県
(働き方改革・女性活躍発見サイト「Hint!ひろしま」http://hint-hiroshima.com)