【観光特集】万博チャンスにインバウントを取り込む②~新春スペシャル対談~
□■━━ 広島経済レポート|2025年新春特集 ━━■□
4月から開かれる大阪・関西万博では350万人の訪日が見込まれる。円安もありインバウンドに追い風が吹く中、瀬戸内ブランドコーポレーション 田部井 智行 代表取締役社長、(社)せとうち観光推進機構 坂元 浩 専務理事・事業本部長のお二方に、対談形式で期待感や重点施策を聞きました。
連泊促進へ食や体験などPR強化 高級旅館でインバウンド増にも対応
田部井 国内全体ではインバウンド増を期待できますが、広島への直接的な影響は限定的かもしれません。ただし、万博開催時期には瀬戸内の島々で瀬戸内国際芸術祭が、福山市では世界バラ会議福山大会が開かれるので、瀬戸内エリアへの注目度は高まると期待しています。
当社の子会社が運営する宿泊施設のインバウンド滞在は、増加傾向です。
25年3月には旧・千光寺山荘跡地に宿泊施設「尾道倶楽部」を開業する予定で、その受け皿となれるよう準備を進めています。
坂元 万博で増えるのは、ほとんどが東京・大阪・京都のゴールデンルートだと予想しています。そこで、関西圏を訪れた後に瀬戸内エリアで2~3泊追加滞在してもらうためのPRを強化中です。瀬戸内エリアのツアーや体験プログラムを、EXPOポータルサイトやOTAに掲載し、誘客を狙います。
また最近は、海外から地方都市への直行便が増え、東アジアからの観光客のリピートにつながっているようです。瀬戸内エリアは空港からのアクセスが良い観光地がたくさんあり、広島県でも尾道市や三原といったエリアの観光スポットが充実しています。アジア向けの発信のさらなる積極化も必要ではないでしょうか。
―インバウンド誘致に向けた具体的な取り組みと課題を教えてください。
坂元 観光庁の「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり事業」に選定された14のモデル地域のうち一つが瀬戸内エリア。23年度から5カ年計画で取り組んでいます。初年度はマスタープランの策定、24年度はブランディングやプロダクト造成に着手しています。外国人は「日本らしさ」「体験コンテンツ」「地域の人との交流」を重視するため、これらの視点を基に、コンテンツを絞り込みました。
県内では福山、竹原、広島の3カ所。具体的には、福山の神勝寺禅と庭のミュージアムでの座禅体験、竹原の藤井酒造などの街歩き、広島市のJR広島駅周辺と原爆ドームを巡りながら戦前戦後と復興を知るウォーキング&サイクリングツアーです。日本らしさや本物を体験できるコンテンツ造成とともに、地域の魅力を語れるガイドの育成が急務です。
田部井 日本食のコンテンツの魅力発信に向け「料亭」の発掘にも取り組んでいます。食と共に日本の文化、おもてなし、四季を感じられる庭など、インバウンドの注目度が高い。瀬戸内エリアで各県の料亭を選定し、有識者の意見も取り入れながら、外国人向けのコース料理や体験などを練っているところです。それを、せとうちDMCで販売したり、海外の旅行会社への案内などで集客し、25年度からは収益化していきます。
せとうちDMCは24年8月に、欧米豪の高付加価値旅行者向けのツアー企画・造成・販売を目的に、第2種旅行業の登録を行い、承認されました。観光体験としてのクルーズは高い人気を誇り、宿泊型客船「ガンツウ」は17年の就航以来、瀬戸内海の絶景を楽しむ特別な体験を提供し、高い稼働率を維持しています。この成功事例を参考に、観光需要に応じたクルーズ船の規模や仕様について調査を進め、地域事業者と連携して新たな船の開発を検討したい。
一方で観光地へのアクセスを支える二次交通(空港から宿泊施設や観光地への移動手段)が課題となっており、リムジンバスの提案に力を入れたい。特に瀬戸内地域では、広範囲に点在する観光地への効率的な移動手段が求められており、少人数旅行者向けの交通手段の充実が重要です。夫婦や小グループで旅行するインバウンド客が増加している中、旅館や宿泊施設による送迎サービスの導入など、地域事業者との連携が必要です。
―人材不足への課題は。
田部井 ヒルトン広島は正社員約200人のうち、5割が新卒採用。23年4月に開業したRyokan尾道西山は24年4月に新卒3人を採用しました。コロナ禍で離れた、広島にいた観光業界の人材は東京・大阪の同業界に再就職している現状があります。それは、給与の高さや都市の魅力が影響していますが、広島の魅力も負けていません。大都市レベルの人件費に追いつけば、若者の人口流出も抑えられます。当社では地域経済の活性化を狙って、高価格帯のプランに注力しています。観光客も来る、そこで働く人材も増える、といった好循環をつくっていきたいですね。
―25年のトピックスと事業者へのメッセージは。
坂元 3月に事業者向けセミナー「せとうちミーティング」を4年ぶりにリアル開催します。広島国際会議場で500人、オンライン500人を見込み、その時には、せとうちDMOが掲げる7テーマ(食、宿、地域産品、アート、サイクリング、クルーズ、サステナビリティ)の各部門で事業者を表彰する「せとうちDMOアワード」を予定しています。どの業界も人材不足が課題ですが、地域の歴史・伝統や魅力を語れる人材を掘り起こし、育成にぜひ力を注いでもらいたいです。
田部井 春に開業する尾道倶楽部は、尾道のシンボルになると期待しています。当社は宿泊、コンサル事業、ファンド投資など領域が広い。一緒に伴走できる体制があるので、ぜひ気軽に相談や情報交換をしていただきたい。