【観光特集】万博チャンスにインバウントを取り込む①(社)広島県観光連盟(HIT) チーフプロデューサー 山邊 昌太郎氏に聞く

□■━━ 広島経済レポート|2025年新春特集 ━━■□

4月から開かれる大阪・関西万博では350万人の訪日が見込まれる。円安もありインバウンドに追い風が吹く中、(社)広島県観光連盟(HIT)山邊 昌太郎チーフプロデューサーに期待感や重点施策を聞きました。

25年に外国人客320万人目指す 交通機関やOTAと連携強化

―インバウンドの状況は。
(社)広島県観光連盟(HIT)/ チーフプロデューサー 山邊 昌太郎氏

G7広島サミット、大阪・関西万博(4~10月)、世界バラ会議福山大会(5月)と大きなイベントが続く2023~25年を広島における観光産業発展に向けたゴールデンタイムと位置付けています。今年はその最終年となる。
サミット以降、円安もあって欧米豪が力強く増加。直行便が増え韓国なども伸びました。昨年の県内の外国人宿泊者数は前年から26%増え、過去最高の182万人泊を見込んでいます。
25年はそれを大幅に上回る320万人を目指しています。円安効果に加え、世界で日本への関心が非常に高まっていると感じており、ここ数年で取り組んできたOTA(オンライン旅行会社)、交通機関などとの連携も相まって、一定の底上げが見込めると考えています。
―万博の広島への影響は。 万博の来場者で広島まで足を延ばす人はそう多くないとみています。そのため、次回の来日時に行き先に選んでもらうための施策に力を入れたい。例えば、広島県のパビリオンを訪れた人にSNSの連絡先を教えてもらってつながりをつくり、個別にアピールする。また、関西空港など帰路の空港で広島をPRする広告を出します。

―インバウンド向けの重点施策は。
広島を紹介するOTAのウェブサイト

海外から広島空港への直行便は少なく、東京や大阪から広島に来てもらうための「血流改善」が欠かせません。24年度は航空会社と連携し、アジア・オセアニア主要空港から羽田経由での航空便を割り引くキャンペーンなどを実施。JRやOTAと連携し、新幹線と神楽鑑賞やショッピングクーポンなどを合わせたパスも始め、売れ行きが好調です。
もう一つはOTAへの登録推奨です。特に外国人はトリップアドバイザーなどのOTAで行き先やアクティビティーを探す人が多い。昨年3月に平和資料館のウェブ予約ができるようになりましたが、行列が解消され、来訪者の満足度が向上すると期待しています。美術館などの主要施設でもまだ登録できていないところが多く、キャッシュレス決済などと共に地道に広げたい。
また、地図上に近隣の店などを表示するグーグルビジネスプロフィールは無料で利用でき、美術館などの観光スポットに限らず、地域の飲食店、商店なども積極的に登録してほしい。寄せられた口コミを受け止め、絶えず商品やサービスを改善していくことも重要です。来訪者の満足度を高めれば、再訪や口コミ集客につながる良い循環を生みます。
HITは観光客が地元民にお薦めの店や広島での過ごし方を質問できるなど広島周遊を存分に楽しむためのアプリ「KINSAI」を昨年公開。今年度中に英語と中国語にも対応させる予定です。

―アジア圏を重視していますね。

広島のインバウンドは欧米豪の比率が高く、これまで観光施策はこれらの地域向けが主体でした。しかし、彼らが広島に来るのは一生に一度あるかないか。何度も来てくれる可能性が高いアジア人を増やさないとマーケットは拡大しないでしょう。 ここ数年、日本政府観光局のアジア地域の現地事務所に対するアプローチを強化。できる限り現地を訪れ、国ごとに効果的なプロモーションを模索、展開していきたい。 長期的な視点に立てば、広島が好きなら誰でもなれる「HITひろしま観光大使」をアジア中心に増やしたい。SNSなどの口コミで旅行先を選ぶ人が増える中、広告塔を担ってもらう。在日外国人向けの視察ツアーも検討。例えば広島大の留学生を福山に招待し、デニム関連のスポットを巡るツアーを体験してもらうといった取り組みを想定しています。
―改めて広島の強みは。 世界中の人が広島を知っていますが、宿泊者数は国内14位に甘んじています。多様な広島の魅力を伝えたいと、23年にキーメッセージ「多様な平和」を定めました。広島は、原爆ドームなどに代表される慰霊と鎮魂だけではなく、おいしい食事や豊かな自然、歴史・文化、仲間と過ごす時間といったさまざまな平和の形を体感できる場所です。海外の旅行会社は新しい観光地を開拓したいと思っており、注目してもらえる可能性は高いのでは。将来的には世界でトップ10の観光地を目指したい。

ウミホタル(甲殻類)を採取・鑑賞するイベント
―プロダクト開発の状況は。 事業者の観光プロダクト造成を支援する枠組み「HYPP」を通じて21年から200件超を創出。非観光事業者の参入を後押ししたいと、24年度から全市町に観光事業者などの専門家を配置しました。既存の資源を活用して魅力的なプロダクトを生み出せるよう、企画立案、マーケティングから旅行会社向けの説明資料作りまで支援。夜の江田島で海の宝石と呼ばれるウミホタル(甲殻類)を採取・鑑賞するイベントや広島仏壇の漆塗りの技術を活用したコースター作り、林業事業者によるきこり体験などユニークなプロダクトが生まれています。
今後は質の充実を目指し、24年度以降に新設、リニューアルする全てでモニターツアーを実施。日本人にとって楽しいものは外国人にも受けるはずで、コンセプトや内容、価格設定などを見直し、皆に満足してもらえる内容に高めていきます。
―事業者へのアドバイスを。 持論ですが、観光は団体戦。宿泊や観光施設に限らず、全ての事業者にとって観光は無関係ではありません。例えば、観光客が広島で過ごす中で県内事業者の製品を気に入り、帰国後に取り寄せることもあるでしょう。実際に10年ほど前からインバウンド拡大に合わせて、みそや化粧品といった日本製品の輸出が増加しています。いわば街全体がショールームで、観光地として広島の人気が高まるほどその広告効果は上がります。企業は英語パンフレットの用意など、知ってもらう工夫をすると良いのではないでしょうか。
受け入れ体制を整えることも重要です。交通機関の乗り方、コインロッカーの使い方など、外国人にとって分かりにくいことが多い。最大の繁華街の流川に外国人の姿がほとんど見えないのは、外国語メニューの少なさなども要因ではないでしょうか。外国人の視点で製品やサービスのあり方を見つめ直すことで、県全体で満足度を高めていきたいですね。

広島経済レポート|2025年新春号掲載